997号 労働判例 「中央タクシー事件」
              (大分地裁 平成23年11月30日 判決)
タクシー運転手の使用者の命令に反する場所での客待ち待機時間が労働時間とされた事例
タクシー運転手の客待ち待機時間の労働時間性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、タクシー運転手として被告Y社に雇用されていた原告Xら2名が、退職後に、Yの基準に基づいて労働時間に当たらないとして賃金カットされたのは違法であるとして、カット分の賃金(未払い賃金)およびその遅延損害金、労基法114条の付加金等を求めていたものである。
 争点は、@30分を超えるY社の指定場所以外での客待ち待機時間が労基法にいう労働時間に当たるか、A争点@が認められた場合の未払い賃金額、A付加金請求の可否であるが、主として@について見ていくことにする。Xらは、指定場所以外での客待ち待機時間も労働時間に当たると主張したのに対して、Y社の主張は次の通りである。
 昭和40年代から指定場所以外での客待ち待機時間について賃金カットを実施し、その間、労働組合とも協議を重ね、組合員にも周知徹底がなされていた。具体的には、「30分を超える指定場所以外での客待ち待機時間については、次のaないしeの基準に基づいてカットする」とされ、aないしeの基準次のように定められていた。
 a.日曜、祭日の待機についてはカットしない。
 b.平日の出勤から午前12時までの待機についてはカットしない。
 c.待機時間が・・・の場合、及び婚礼待機、配車による待機、乗客の要請による待機についてはカットしない。
 d.売上月額35万円以上の場合、カットしない。
 e.売上日額が、当直以外の勤務2万7000円以上、当直勤務3万円以上の場合、カットしない。
 労働時間カットの手続きは、運行日報とタコグラフから待機時間と待機場所を特定してカットするが、特定できない場合はタコグラフの該当箇所に「?」と記入し、上長が確認する。また、乗務員がいつでも確認できるように事務所に備え付け、異議申し立てが可能な状態にしてある。なお、指定場所以外での客待ち待機は非効率なので再三にわたり指導してきたが、Xらはこれを無視して繰り返していたものである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示している。@労基法にいう労働時間とは、労働者が使用者の明示または黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間をいうが、Xらの客待ち待機をしている時間は、30分を超えるものであっても、Yの具体的な指揮命令があれば直ちにその命令に従わなければならず、また、Xらは労働の提供ができる状態にあったのであるから、Yの明示または黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であったことは明らかである。A仮に、Yが30分を超えるYの指定場所以外での客待ち待機をしないように命じていたとしても、その命令に反した場合に、労基法上の労働時間でなくなるということにはならない(命令に従わないことについて適正な手続きで懲戒処分ができるとしても、この命令に従わないことで労働時間に該当しないということはできない)。この点は、大分駅構内等(指定場所以外)における客待ち待機時間についても同様である。Bある時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、当事者の(労働協約等の)約定にかかわらず、客観的に判断するべきであるから、労働協約の規定があったとしても、労基法上の労働時間に該当しなくなるわけでもない(ただし、労働協約にその旨の明文の・文書化された基準規定はなかったとされている)。CYは、Xらの大分駅構内等における30分を超える客待ち待機時間につき、信義則に反し債務の本旨に従った労働と評価されないと主張するが、労働時間として否定されるほど、あるいは、およそ労働とは認められないほどの信義則違反とは認められない。
 タクシー運転手の賃金体系が、基本給プラス歩合給で計算され、基本給の割合が大きくなればなるほど、効率的な客待ちが要請されることになると思われるが、本件は、タクシー運転手の客待ち待機時間が労基法にいう労働時間に当たるとして、この微妙な問題にひとつの解答を与えたものとして興味深い。

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