995号 労働判例 「日本レストランシステム事件」
              (東京地裁 平成22年4月7日 判決)
飲食店のアルバイト店員について変形労働時間制の適用がないとされた事例
変形労働時間制の適用の可否

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、飲食店のアルバイト店員について変形労働時間制の適用が問題とされたケースであるが、未払いの時間外割増賃金の支払いに関連してタイムカードによって実労働時間の認容を行っている点でも注目される。
 X(原告)は、多数のレストランチエーン店を経営しているY(被告)にアルバイト店員として入社し主に「錦糸町テルミナ店」において、キッチンでの調理、ホールでのウエイター、食材等の発注、レジ管理等の業務に従事してきた。またYの要請により他店舗の応援に出向いたこともあった。なお、同店に在籍する社員は、正社員2名(店長、セカンドスタッフ)以外はアルバイト店員であって、時期によっては異なるものの約15名程度のアルバイト店員が在籍していた。
 「錦糸町テルミナ店」は、11時から22時までの営業であり、したがって10時から22時30分の間が労働時間の枠になっていた。同店では、毎月1日および16日ころ、アルバイト従業員に対しておよそ2週間後からの15日分について(1日であれば、その月の16日から月末まで、16日であれば、翌月の1日から15日まで)自分が勤務する時間帯の希望を聴取して、アルバイト従業員が自分の希望する日・時間の労働時間を申告し(希望が競合すれば話し合いで、また、正社員から「この時間、入れないか」と依頼されてそれを承諾して)、Yの方でシフトを決定するという方法が採られていた。シフトで割り当て・決定された労働時間がアルバイト従業員の労働時間となる。Xの労働時間も上記のようなプロセスを経て決定されていた。
 賃金の単価は時間給であった(当初の980円から1010円まで推移した)。
 本件は、@XがXに対する変形労働時間制の適用を争うとともに、A未払いの時間外割増賃金の支払いを求めたものである。@について、Yは、就業規則上の変形期間は1か月であるが、アルバイト従業員が学生主体であるため、1か月単位の予定を定めることが困難であるという事情があり、所定労働時間の特定は半月単位になっており、1か月単位の変形労働時間制の要件を満たしていないものの、半月単位の変形労働時間制の要件は満たしていたものであり、労基署の是正勧告を受けて就業規則上も半月単位の変形労働時間制に変更した、Aについては、Xの労働時間は、シフト表によって決まっており、シフト表に定める時間がXの労働時間である等と主張していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、@について、次のように判示する。「Yが採用していた変形労働時間制は就業規則によれば1か月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を定めず、変形期間における期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかったものであって、労基法に従った変形労働時間制の要件を遵守しておらず、かつ、それをりせんし履践していたことを認めるに足りる証拠もない」から、変形労働時間制の適用があることを前提とするYの主張は採用できない、と。変形労働時間制の要件を満たした場合、その定めにより、特定された週において労基法32条1項の労働時間(40時間)または特定された日において労基法32条2項の労働時間(8時間)を超えて労働させることができるが(32条の2)、この要件を満たさない場合には、法定労働時間を超えて労働させた場合は、時間外労働として割増賃金の支払いの必要がある。
 Aについて、次のように述べる。Yは、アルバイト社員の出退勤について半月ごとシフト表を定め、シフト表どおりの出退勤の管理を指導するとともに、タイムカードの打刻も作業開始時および作業終了時とし、延長もしくは短縮した時間は、勤務時間どおりにタイムカードを打刻するように指導していた。Yは、シフト表と併せてタイムカードによってもXの出退勤の管理を行っており、Xはタイムカードの打刻どおりに労務提供の開始・終了を行い、労務の提供を行ってきたが、Yは、シフト表に定める時間が労働時間であることを前提に賃金を支払ってきたにすぎないので、本件時間差分の賃金が未払いになっている。
 アルバイト店員について変形労働時間制の適用が否定されたケースとして実務的にも興味深い。

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