978号 労働判例 「クボタ事件」
(東京地裁 平成23年3月17日 判決)
派遣先会社が、直用化を予定している派遣労働者との関係で労組法7条の使用者に当たるとされた事例
派遣先会社の使用者性
解 説
〈事実の概要〉
X社は、内燃機関等の製造販売等を行う会社で、当時、従業員数は1万1000名であった。大阪市大正区にO工場がある。補助参加人組合Zは、全日本港湾労働組合の地方組織であり、同組合の下部組織として、XのO工場で勤務する者によりクボタ分会が組織されている。
平成18年9月、X社と吉岡商会との間で、労働者派遣契約が締結され、吉岡商会に雇用された者が、XのO工場で就労していた。X社は、平成19年1月26日、同社の工場で就労している派遣労働者を、同年4月1日を目処に直接雇用することを決定した。その後、同年2月1日、この派遣労働者が加入するZ組合(補助参加人)が、直雇用化前にX社に団体交渉を申し入れたところ、会社は、1度は団交に応じたものの、その後は、組合からの3度にわたる団体交渉の申入れに対して、直雇用化が実施されるまでの間、これに応じなかった。そこで、@平成19年2月1日のZ組合の団体交渉を申入れに対して、会社が、同年2月23日の団体交渉開催を提案する一方で、それ以前の同月16日に組合員らに対して、直雇用化後の労働条件について説明会を実施したこと、A組合からの同年2月28日、3月14日、同月23日付けの団体交渉申入れに対して、会社が応じなかったことが、それぞれ労組法7条3号・2号の不当労働行為であるとして、同年3月23日に大阪府労委にZ組合が救済申立てを行った。大阪府労委は、平成20年10月27日、本件救済申立てのうち、Aについて、X社が、1回目の団体交渉開催以降、直雇用化実施までの間に団体交渉に応じなかったことは、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、X社に対して、同団体交渉拒否に係る文書手交を命じ、その余の申立てを棄却する旨の命令を発した。会社は、これを不服として中労委に再審査の申立てを行ったが、中労委は、平成21年9月2日、初審命令は相当であるとして、本件再審査の申立てを棄却し、初審命令の主文を一部訂正する命令(本件命令)を発した。本件は、X社が、本件中労委の命令を不服としてその取消を求めたものである。
〈判決の要旨〉
裁判所は、派遣先会社が、直用化を予定している派遣労働者との関係で労組法7条の使用者に当たるとした中労委の命令を適法として次のように判示している。すなわち、労組法7条における「使用者」は、労働契約関係ないしそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係の一方当事者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的にそれに該当するものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者も、またこれに該当するとしたうえで、本件について次のように述べる。すなわち、本件団体交渉申入れが行われた各時点においては、会社は、近い将来においてクボタ分会の組合員らと労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する状態にあったものであり、当該時点において、労働契約関係ないしそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係の一方当事者として、本件団体交渉申入れに応ずべき労組法7条の使用者に該当していたと。そして、会社の行為は、正当な理由なく団体交渉を拒んだものとして労組法7条2号の不当労働行為に当たると。
同様な判断を中労委は別の事件においても行っている(ヤンマー事件・中労委決定平成22・11・10別冊中労委時報1412号1頁)。
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