964号 労働判例 「東日本電信電話事件」
              (東京高裁 平成22年12月22日 判決)
会社の採用した制度が高年齢者雇用安定法9条の継続雇用制度に当たらないとはいえないとされた事例
高年齢者雇用安定法9条の継続雇用制度の意義

 〈事実の概要〉
 本件は、東日本電信電話株式会社Y(被告、被控訴人)で採用された高年齢者雇用安定法9条の継続雇用制度に当たらないかどうかが争われた事件である。高年齢者雇用安定法9条は、年金受給年齢の引き上げに伴う高年齢者の65歳までの雇用を安定を図るために、@当該年齢の引き上げ、A継続雇用制度(現に雇用している当該高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう)の導入、B当該定年の定めの廃止、のいずれかの措置を講じなければならないとされたが、Yでは、構造改革および雇用形態の多様化に伴い、@本件会社での60歳定年までの雇用、A本件会社を中途退職して、グループ会社での60歳定年までの雇用(15ー30%の程度の賃金減額されるが、緩和措置がある)および契約社員での65歳までの雇用、のいずれかを従業員に選択させた。そして、上記@およびAのいずれも回答しなかった者は、@を選択した者とみなされる旨の告知が事前に行われていた。Xら(原告、控訴人)は、上記@およびAのいずれも回答しなかったので@を選択したとされ、60歳定年で退職したと取り扱われた。そこで、Xらが、上記取扱いを規定したYの就業規則は高年齢者雇用安定法9条に違反していることを理由に、(1)Yの従業員の地位を有することの確認、(2)平成20年以降の賃金および遅延遅速の支払い、(3)Yの雇用契約上の地位を否定したことを理由とする不 法行為による損害賠償、を求めていた。
 原審は、高年齢者雇用安定法9条が私法的効力を有しない等と述べてXらの請求を棄却したため、Xら10人のうち5人が控訴していた。控訴審でXらは「60歳以上同一企業における雇用継続」は公序であるから、本件Yの制度は公序に違反し無効であるとの主張を付け加えた。
 〈判決の要旨〉
 控訴棄却。裁判所は、原審と同様に、高年齢者雇用安定法(以下、「法」と略する)9条1項の規定は、これに違反した場合に、65歳未満の定年の定めを無効とする私法的効力、強行性を有するものではないと判示した。また、法9条1項2号は、制度内容を一義的に規定していないが、これは、雇用継続は、各企業、事業主の実情、若年労働者の雇用確保との均衡等に配慮し、各企業の自主性を尊重して、労使の工夫による自主的努力に委ねられるべきものであるとしたためと解されるとした上で、「65歳までの継続雇用確保措置について確実な履行を実施しない場合には私法的強行性を認めるべきである」旨のXらの主張は採用できないとされた。
 また、法9条1項2号にいう「継続雇用制度」について次のように判示する。すなわち、この制度は、65歳までの安定した雇用機会の確保という同法の目的に反しない限り、各事業主において、その実情に応じ、同一事業主による継続雇用に限らず、同一企業グループ内での継続雇用を図ることを含む多様かつ柔軟な措置を講じることを許容しており、また、賃金、労働時間等の労働条件についても、労働者の希望および事業主の実情等を踏まえ、各企業の実情に応じた労使の工夫による多様で柔軟な形態を許容するものであるとし、本件Yの制度は、同一企業グループ内で高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保する制度と評価できるとし、会社自身による継続雇用を保証するものではないことをもって、法9条1項2号にいう継続雇用制度に該当しないとはいえないとした。また、「60歳以上同一企業における雇用継続」は公序である旨のXの主張についても、退けている。本件の場合、雇用形態の選択の時期が50歳とかなり早い時期であったことも問題とされていたが、この点も、合理的な範囲内で事業主の裁量に委ねられており、時期選択についてYに裁量の逸脱があったとまでいえないとした。
 判旨はこれまでの裁判例の判断と軌を一にしたものであり特段問題はないと思われるが、法9条1項2号の制度趣旨を損なうような「継続雇用制度」の場合には、損害賠償請求が認められることになろう。

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