946号 労働判例 「日本板硝子(早期退職割増退職金)事件」
             (東京地裁 平成21年8月24日 判決)
早期退職優遇措置(早期退職割増退職金)とネクストライフサポート制度による
支給額との差額請求が認められなかった事例

早期退職割増退職金の支給要件

  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Y社(被告)の元従業員X(原告、現在は、Y社の子会社の1部門の営業譲渡を受けたO社に在籍)が、Y社に対して、退職届撤回の有効性を主張し、ネクストライフサポート制度による退職者について、早期退職優遇措置の適用を排除したのは公序良俗に反する等として、Y社に対して、早期退職割増退職金(9758万円余)とネクストライフサポート制度による退職金(4655万円余)との差額、5103万円余等を請求した事例である。
 Y社のネクストライフサポート制度は、次のようなものである。すなわち、退職後の転職のための支援金を支給することでライプランフサポートを目的として、平成18年度から定期的・定例的に実施されている(3、6、9、12月の年4回)が、自己都合退職金および支援金の支給から構成されていた。これに対して、早期退職優遇措置は、平成20年3月から4月にかけて、新たに1回限りで実施されたもので、グローバル化を進める会社の組織改革についていく自信のない管理職に対して、他社への転身を促す制度として位置づけられ、この制度による早期退職割増退職金は、会社都合退職金(特別餞別金を含む)および加算金からなっていた(Xの場合、この額が9758万円余になる)。ただし、ネクストライフサポート制度による退職者は除外する旨の定め(除外条項)があった。
 Xは、昭和54年4月、Y社に技術者として入社し、窯業系建材部門の技術者として勤務してきたが、平成12年にY社の子会社であるN社に在籍出向し、建材部門において勤務していた。その後、N社の建材部門がO社に事業譲渡され、N社に残ったXは、防音鵜・音響工事等の部門で勤務したが、自らの専門との間でズレを感じるようになり、同僚のB管理部長からネクストライフサポート制度による退職希望者募集の話を伝え聞き、平成19年12月頃、A社長にネクストライフサポート制度を利用して退職する意向を伝えた。その際、慰留されたが、やはり退職する意向を固め、Y社に対して同月25日に退職届を提出し、ネクストライフサポート制度による退職希望者募集に応じる旨申し出た。Yは、Xの退職届を受理し、同制度に従い、平成20年3月31日付けで退職する前提で手続きを進めた。他方で、平成20年3月から4月にかけて、早期退職優遇措置の導入が行われたため、平成20年3月5日以降、Xは、数回にわたり、ネクストライフサポート制度による退職届を撤回する旨を、書面でYに通知し、早期退職優遇措置に基づく退職の適用を求めたがきょされた(その後、平成20年3月31日付けで合意退職の効力が発生したとしてXは退職とされ、O社に在籍している)。
 〈判決の要旨〉
 本件の最大の争点は、Xによる本件退職届の撤回の成否、本件除外条項の効力であるが、他に早期退職優遇措置についての使用者の告知義務違反の有無等が問題となっている。まず、Xによる本件退職届の撤回の成否について、裁判所は、本件退職届による意思表示はネクストライフサポート制度を利用して退職する旨の意思表示であり、これを雇用契約の合意解約の申込みであるとし、Y社がXの退職届を受理し、平成20年3月31日付けで退職する前提で手続きを進め、遅くとも、Xに対して退職年金の支払いについての通知をした2月12日までには、雇用契約の合意解約を承諾する旨の意思表示をしている、したがって、雇用契約の合意解約がすでに成立している以上、本件退職届による意思表示の撤回は効力を有しない、と判示している。そして、本件除外条項の効力については、両制度の制度目的が異なる以上、自己都合退職の場合の退職金額よりも会社都合の場合の職退金額が大きいことが違法とされないのと同様に、ネクストライフサポート制度よりも早期退職優遇措置による割増額が大きいことをもって、直ちに違法な差別とはいえないとし、早期退職優遇措置については、経営改善を目的として管理職を対象とした余剰人員の削減を目的として実施されたと認められ、既に早期退職が予定されている者について、対象から除外したとしても不合理とはいえないとして、Xの主張を退けている。法的には妥当な判断と思われるが、両制度で5000万円を超える差が出ること自体、制度設計に問題があったようにも思われる。

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