941号 労働判例 「三和サービス(外国人研修生)事件」
              (名古屋高裁 平成22年3月25日 判決)
外国人研修生につき労働者として時間外手当、最低賃金額との差額が認められた事例
外国人研修生と労働者保護法の適用

 解 説
〈事実の概要〉

 本件は、X社(帆布製品の製造等を営む有限会社、原告)が、Y1ら5名の外国人技能実習生が作業をボイコットしたため取引先を失い、当該部門の廃業に追い込まれたとしてYらに対し損害賠償を請求した(本訴)のに対して、YらがX社による解雇は無効であるとして実習期間満了までの賃金相当額の支払い、外国人研修生であった期間の残業代につき最低賃金額との差額との差額およびそれに関連する付加金を請求した(反訴)したケースである。
 技能を学ぶために研修生契約に基づいて企業に受け入れられている「研修生」は、雇用関係のある者としては取り扱われないので、これらの者には労働基準法、最低賃金法等の労働保護法規は適用されない。もっとも、研修生であっても労働者とみなされるべき労働の実態があれば別であり、本来、研修生については実務研修の期間は原則として研修期間全体の3分の2以下であることとされている。しかし、本件でYらは、3日間の生活基本知識の研修を受けたものの、それ以外はすべて実務研修として縫製作業に従事していた。これに対して、雇用関係のもとで技術・技能を習得するための活動を行う者(技能実習生)は、労働者とみなされ労働保護法規が適用される。
 Yら5名は、外国人研修生制度(原則1年以内)および外国人技能実習生(研修制度期間と合わせて最長3年まで)を利用して、X社において自動車のシートカバーの縫製等の作業に従事していたが、X社は、Yらが作業をボイコットしたため取引先を失い、縫製部門が廃業に追い込まれたとして2754万4500円の損害賠償等を請求した。これに対して、Yらは、@X社が平成19年9月1日にYらを解雇したが、その解雇は無効であり、各自の外国人技能実習期間満了まで月額11万7000円の賃金(Y1ーY3については8ヵ月分合計各93万6000円、Y4・Y5については各12ヵ月分合計各140万4000円)の支払い等、AYらが外国人研修生であった期間中、X社は、三重県の時間外労働賃金の最低額を下回る残業代しか支払わなかったとして、その差額たる未払いの時間外労働賃金、付加金等を請求していた。
 原審(津地四日市支判平成21・3・18)は、X社の請求を棄却し、Yらの反訴請求のうち、@についてはX社による解雇はなかったとして棄却したが、Aの未払いの時間外労働賃金および付加金については、外国人研修生としてのYらには最低賃金法の適用があるとして全部認容した。これに対してX社が控訴していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、X社の控訴を棄却した上で、Yらの反訴請求については次のように判示している。まず、@については、8月27日の不就労の後についても、Yらには就労の意思があったにもかかわらず、Y社代表者が、すでに仕事はなくなっており、材料も取引先に全部返した旨述べて、その後のYらの就労を一切拒絶したことが認められ、このような労務受領拒否はYらに対する解雇に他ならないというべきであるとした(原審は、この点、8月27日の不就労の後Yらに労務提供の意思がなかったとして、労働契約が合意解約されたものであり解雇されたとはいえないとして、同日以降のYらの賃金請求について斥けていた)。Aについては、未払いの時間外労働賃金を認めるとともに、付加金については、違反のときから2年以内に請求されている付加金の額が、仮に誤って少額であったとしても、本体請求における未払金の額が異ならないのであれば、その後、その未払金の額に合致した額に付加金の額を増額したとしても、2年の除斥期間によりその増額が制限されることはないとして、注目すべき判断を示している。
 なお、本件で問題となった外国人研修生制度については、種々の弊害が存在したとして、入管法の改正により入国1年目から研修生ではなく技能実習生とされ、労基法上の労働者として労働関係法規の適用を受けることになった(平成22年7月1日施行)。

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