937号 労働判例 「報徳学園事件」
(神戸地裁尼崎支部 平成20年10月14日 判決)
常勤講師としての有期雇用契約更新時の3年上限の告知による雇止めが認められなかった事例
有期雇用契約更新時の3年上限の告知の意義
〈事実の概要〉
本件は、Y(学校法人、被告)との間で、美術の非常勤講師としての雇用契約(1年、有期)を3回更新した後で、常勤講師としての雇用契約(1年、有期)を3回更新し、その後に雇止めされたXが、雇止めを違法としてYに対して雇用契約上の権利を有することの確認と賃金の支払を求めていたケースである。
Xは、大学の美術学部を卒業し、中学・高校の教諭一種免許(美術)を保有する男性であるが、中学・高校を設置している学校法人Yに、平成11年4月、雇用期間1年の美術の非常勤講師として採用され、その後、2回、同様の雇用契約を更新した。Xは、平成16年4月1日付けで、Yとの間で美術科の常勤講師として採用され(期間1年)、授業、クラブ活動の指導、配属された各部・各学年にかかわる業務等の業務に従事してきた。その契約の際に、当時のB校長は、1年間しっかり学園のために頑張ってほしい、1年間しっかり頑張れば専任講師になれるといった趣旨の発言をした。同契約は、その後、平成17年、18年と更新されたが(平成17年度にはクラス担任となる)、平成17年12月ころ、C校長等から呼び出され、C校長から「常勤講師が3年までということは知っていますよね」と尋ねられた。Xはそれは知らないと答えたが、C校長はその際、平成18年度に専任講師としての採用はない、平成19年度の雇用は白紙である等発言した。Xは、平成18年11月2日ころ、Yから「御通知書」という文書を受け取ったが、そこには平成19年3月25日をもって契約が終了する旨書かれていた。その後、YはXとの契約を更新せず、雇い止めした。
〈判決の要旨〉
裁判所は、本件において、X・Yとの間で期間の定めを形式的なものとする旨の意思があるとは認められず、本件契約が期間の定めのないものと実質的に同視できるものとは認められないとした上で(期間の定めのないものと実質的に同視できる場合には、解雇権濫用法理が類推適用される、最1小判49・7・22民集28巻5号927頁[東芝柳町工場事件])、有期雇用契約が期間の定めのないものと実質的に同視できるものとは認められない場合であっても、雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合には、やはり解雇権濫用法理が類推適用され、期間満了後の労働者・使用者間の法律関係が「従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる」とする(最1小判昭和61・12・4集民149号209頁[日立メディコ事件])。そして本件の場合、Xは、常勤講師としての勤務に対する評価次第では専任教諭になれる旨の激励を受けていたのであるから、Xの期待についての合理性は高かったとした。
そして、本件のXのように、「雇用継続に関し強い期待を有していたことが認められ、かつ、上記期待を有するにつき高い合理性があると認められる」場合、「このようなXの期待利益が遮断され又は消滅したというためには、雇用の継続を期待しないことがむしろ合理的とみられるような事情の変更があり、または、雇用の継続がないことが当事者間で新たに合意されたなどの事情を要する」とした。
さらに裁判所は、Xの常勤講師としての資質、適性等に問題があることを窺わせるような事情が見当らないなかで、本件雇止めの実質的理由として常勤講師の雇用を3回を限度とする内規によるところが大きいとした上で、「雇用継続に関する期待が生じるに先立って、上記内規について十分に説明がされ、被用者の納得を得ていたような事情のない本件において、上記のような内規に基づいてされた雇止めを合理的なものということはできない」として、結論として本件雇止めは無効であるとしている。
本件のように、常勤講師としての勤務に対する評価次第で専任教諭になれう旨の期待を抱かせたうえで、3回更新で打切りの内規を途中で出してきても認められないということであるが、その内規が契約の当初から明示され当事者間で承知されていた場合には、異なった結論になった可能性があろう。
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