926号 労働判例 「浜野マネキン紹介所事件」
              (東京地裁 平成20年9月9日 判決)
派遣労働者が、派遣先でのトラブルを理由に解雇されたとして解雇予告手当等を請求した事例

就労停止の告知と解雇の関係
 〈事実の概要〉
 本件は、元派遣社員Xが、主位的に派遣先でのトラブルを理由に解雇されたとして解雇予告手当等を、予備的に就労禁止により就労できなかったとして賃金支払いを請求した事件であるが、裁判所は、就労停止の告知は解雇予告に当たらないとして解雇予告手当の請求は認めなかったが、労務を提供できなかったのは使用者の責めに帰すべき事由によるものであるとして賃金支払いを認容している。
 Xは、Y(派遣元)と、平成18年9月28日、雇用期間、同年10月1日から同年12月31日まで(3ヵ月ごとに更新)、同年9月28日から同月30日までを試用期間、就業日は火曜日、水曜日を除く全日(祝祭日を含む)、就業時間は午前11時から午後8時まで(休憩時間60分)、給与は時間制(1時間1800円、日給1万4400円、平日残業時間は1時間2250円)として雇用契約を締結し、P(派遣先)に派遣され、B家電量販店(本件店舗)で就労していた。
 しかし、10月30日、B店舗で同店舗の女性従業員との間で、高額商品の伝票処理をめぐってトラブルとなった。Yは、同月31日、電話で、「本件店舗の女性従業員から本件派遣先に苦情が入ったため、(同年)11月2日からもう出勤しないでください」と告げた。これに対して、Xは、Yから納得のいく説明を受けられなかったこともあって、同年11月2日以降も本件店舗に出向いて就労した。Yは、同月10日、Xに対して、本件雇用契約に基づく本件店舗での就業について、「その売場にはもう出られません。(同月)12日で終了してください」と告げた(「本件告知」)。Xは、同月13日以降、本件店舗で就業していない。その後、Xは、Yおよび別の派遣事業会社であるSの紹介・あっせんを通じて、訴外T社との間で、契約期間を同日から同年12月31日までとし、訴外G社を派遣先とし、派遣先指定の就業場所でガスコンロを販売することを業務内容とする雇用契約を締結した(ただし、契約書の締結は同月15日)。この契約においてXの賃金は日給1万4000円のほか販売手当(1台2000円ないし3000円)とされた。同契約は、3ヵ月ごとに更新され、平成19年1月1日から同年3月30日までとされている。
 本件の争点は、@解雇予告手当請求権の存否、A賃金請求権の存否、B慰謝料請求権の存否の3点である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、上記@について、Yは11月13日以降、新たな就職先を探していた、XもYにより新たな派遣先が提供されることを期待していた、最終的にYがXに同業他社の派遣先で働くことを勧め、Xもそれに応じたこと等から、派遣就労先を本件店舗(B店舗)に限定したものではない、上記の告知は、本件店舗で就労しなくなったとしても、Yに新たな就労先を探す債務が生じるにすぎず、解雇の予告ということはできず、Xは解雇予告手当の支払いを請求できないとした。
 これに対して、Aについては、上記の告知後労務を提供できなかったのはYの責めに帰すべき事由によるものであるとして別会社との雇用契約が成立した前日である12月5日までの期間につき賃金支払い請求を認容した。なお、B(16万9600円の請求)について、出勤停止の理由を本件店舗従業員から派遣先に苦情があったためと告げており、その理由に納得できないとしても、理由なく出勤停止を伝えたわけではない等として否定している。派遣社員については、派遣先から苦情があった、業務を拒否された等の理由で就労を中止させるケースが少なくないが、その意味で本件は事例として実務的にも重要な意味を有していると思われる。

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