914号 労働判例 「加西市(職員・懲戒免職)事件」
             (神戸地裁 平成20年10月8日 判決)

市職員の酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分が違法とされた事例
市職員の酒気帯び運転と懲戒免職処分

  解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、市職員が酒気帯び運転を理由として懲戒免職処分を受け、それを違法であるとしてその取消を求めたものである。
 市職員であるX(原告)は、平成19年5月6日(日曜日)午前8時ころ、自身が居住する加西市の町の役員(以下「町役員」という)に草刈り機の操作方法を説明するため、河川堤防の草刈り作業現場に立ち合った。Xは、1時間あまり現場で立ち合った後、自宅に戻ったが、その後、草刈り作業に従事していた町役員の一人から電話で食事に誘われたため、自家用車で自宅から1・5キロメートルの所にある焼肉店に赴いた。Xは、そこで5人相席の状態で食事をとり、その際、ビールを中ジョッキ1杯、日本酒1合を飲んだ。飲酒を終えた後、Xは、町役員らと30分ないし40分程度雑談をし、午後2時前、帰宅するため、駐車場に置いてあった自家用車を運転した(以下、「本件酒気帯び運転」という)。Xが焼肉店から400メートルほど進んだところで、パトカーに追尾され、コンビニの前の空き地に車を停めたが、警察官がXに対して飲酒検知を行ったところ、呼気1リットル中から0・15ミリグラムのアルコールが検出された。
 平成19年5月7日、Xは、本件酒気帯び運転につき、Y(被告・市)に報告したが、同月9日、K市懲戒審査委員会が開催され、全員一致で懲戒免職処分相当との決定がなされ、その旨の委員会の意見がK市長に報告された。K市長は、同月11日付けで、本件酒気帯び運転を理由にXを懲戒免職処分とした。Yでは、「職員の懲戒処分に関する指針」が定められ、事故を伴わない飲酒運転(酒気帯び運転を含む)の標準量定は「免職・停職」とされていたが、平成18年9月29日付けで改正され、その結果、酒気帯び運転の標準量定は「免職」のみとされた。なお、Xは、本件酒気帯び運転につき、道路交通法に基づく行政処分として、免許停止30日の処分を受け、講習受講に伴う29日間の短縮措置を受けるとともに、刑事処分として罰金20万円の略式命令の告知を受け、その納付を行った。
 〈判決の要旨〉
 地方公務員法29条1項は、地方公務員に同項1号ないし3号の非違行為があった場合、懲戒権者は、戒告、減給、停職または免職の懲戒処分を行うことができる旨規定するが、懲戒について「公正でなければならない」(公正原則)、平等に取り扱われなければならない(平等原則)と定めるのみで、どのような非違行為に対してどのような懲戒処分をすべきかについては、何ら具体的な基準を定めていない。したがって、「K市長は、非違行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、K市職員の非違行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する懲戒処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分をすべきかを、その裁量により決定することができる」。「もっとも、その裁量も全くの自由裁量ではないのであって、決定された懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であるとか、著しく不平等であって、裁量権を濫用したと認められる場合、公正原則、平等原則に抵触するものとして違法となる」。
 裁判所は、飲酒運転に起因する悲惨な交通事故が少なからず発生し、飲酒運転に対する社会的非難が高まっていることから、本件酒気帯び運転を重大な非違行為と受け止め、これに厳罰をもって対処しようとしたK市長の判断は良く理解できるとしながらも、他方、免職という懲戒処分が、公務員にとって不名誉であるだけではなく、直ちに職を失って収入を閉ざされ、退職金も失うこと、とくにXのように38年間もK市に職員として勤務し、退職が間近に迫っていた職員とってはなおさらであるとして、本件処分は、社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であり、裁量権を濫用したものとして公正原則に抵触する違法なものであると結論づけている。飲酒運転に対する社会的非難は当然としても、本件酒気帯び運転について懲戒免職処分のような極端に苛酷な処分をなすことは妥当とは思われない。判旨の結論はバランスのとれた判断であると思われる。

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