903号 「テクノアシスト相模事件」
       (東京地裁 平成20年2月13日 判決)
注文者と注文者の工場内で作業に従事していた請負人の従業員との間に
実質的使用従属関係があるとされた事例

請負人の従業員に対する注文者の安全配慮義務
  解 説
 〈事実の概要〉

 Xらの子であるGは、Y1に雇用され、Y2の工場内で、高さ約90センチメートル、足場面積40センチメートル四方の作業台の上に立ってラインを流れる缶の蓋を検査する作業に従事していた。その作業に従事中にGは、作業台から転落し、工場の床で頭部を強打し、脳挫傷等の負傷を負い、その後意識が戻ること無く約3ヵ月後に死亡した。Xらは、Gと雇用関係のあったY1、およびY1から偽装派遣の形で従業員の派遣を受けていたとしてY2に対して、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を求めた。
 本件の争点は、@Gの業務と死亡との間の因果関係、A直接の使用者であるY1の安全配慮義務違反・不法行為責任の有無、B請負注文者であるY2の安全配慮義務違反・不法行為責任の有無、C過失相殺の当否等であるが、@について裁判所は次のように判断している。すなわち、Gは、工場内で検蓋作業に従事中に、本件作業台から転落して、頭部を床面に打ち付け、それにより頭部を強打して脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負ったものである(Gは、床に倒れる前にほぼ意識がなかったものと推認されている)。
 〈判決の要旨〉
 まず、裁判所は、Y1の責任について次のように判示している。Y1は、Gとの間の雇用契約上の信義則に基づいて、使用者として労働者の生命、身体、健康を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)を負うが、本件作業は、高さ約90センチメートル、足場面積40センチメートル四方の作業台の上に立ったままで、約8時間にわたりラインを流れる缶の蓋を検査するという作業に従事するというもので、しかも、従業員から暑さに対する対策を求められるほどの高温の中での作業であったというのであるから、本件検蓋作業を行うに際して、熱中症や体調不良などの異常が生じた場合に、作業者が転落する可能性が十分考えられるのであり、このような状況下においては、Y1は、安全配慮義務の具体的内容として、転落の危険性を避けるために、転落防止の措置が施された転落の危険のない適切な作業台を使用すべき義務を負っていたと解するのが相当である。しかるに、Y1は、転落防止の措置が施されていない本件作業台をGに使用させたというのであるから、上記安全配慮義務に違反したので債務不履行に基づく損害賠償の義務を負う。また、上記義務違反はY1の不法行為にも当たるので、Y1は、不法行為に基づく損害賠償責任も負う。
 次いで、Y1とY2の関係について次のように判示する。Y2を注文者、Y1を請負人とする請負関係にある(Xらは、偽装派遣の主張をしているが、判決では偽装派遣の判断はしていない)。注文者と請負人の従業員との間の安全配慮義務について、「注文者と請負人との間における請負という契約の形式をとりながら、注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用契約に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合、すなわち、注文者の供給する設備、器具等を用いて、注文者の指示のもとに労務の提供を行うなど、注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、その間に雇用契約が存在しなくとも、・・・・・・特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上、注文者は、当該労働者に対し、使用者が負うと同様の安全配慮義務を負う」。そして、本件検蓋作業は、Y2の工場内の、Y2が所有する機械・設備が設置された場所で行われ、作業の内容もY2が所有するナンバー3ラインを流れる作業であったのであり、Y2のBは、Y1のAに、本件検蓋作業の内容、手順等を説明していたというのであり、Y1の従業員は、実質的にY2の指示のもとに労務の提供を行っていたと評価できる。したがって、Y2は、Y1の従業員に対して、信義則上、安全配慮義務を負うと。 「複雑な」雇用関係における安全配慮義務の問題に関する判旨は、実務的にも重要な意味を持つと思われる。

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