884号 労働判例 「大林ファシリティーズ(オークビルサービス)事件」
(最高裁第2小法廷 平成19年10月19日 判決)
住込みマンション管理人夫婦の業務の労働時間性、時間外・休日労働
住込みマンション管理人夫婦の業務とその労働時間性
解 説
〈事実の概要〉
本件は、Y社(オークビルサービス)に雇用され、マンション管理人として住込みで就労していたX(被上告人)が、同様に住込みで管理人として就労していた夫であったBの分の相続分と併せて、所定外の時間に業務に従事したとして時間外・休日労働の割増賃金等を請求した事件の上告審である。
Xらの雇用契約では、日曜、祝日、夏季・年末年始を除いた平日、1日8時間(午前9時ー午後6時、休憩正午から午後1時までの1時間)が勤務時間とされ、所定外の時間での勤務には一定の割増賃金が支払われることになっていた。就業規則では土曜が休日となっていたが、X、Bのいずれかが勤務し、勤務した者は翌週の平日を振替休日とする、執務場所は管理人室、とされていた。Y社は、上記のような勤務につき、基準内賃金のほか割増賃金に充当する趣旨でBには1万5000円、Xには1万円を支払っていた。しかし、Xは、実際には、平日の所定時間前後にも業務があり、土曜日・日曜日、祝日も平日と同様に業務をしていたとしてこれらに対する賃金と割増賃金を請求した。これに対して、Y社は、これらは指示していない業務への従事であるか、極めて短時間の業務であり、労働時間ではないと主張した。原審は、労働からの解放が保障されていない場合は、労基法上の労働時間に当たるとした上で、1審が、2人分の賃金請求を認めた日曜、祝日の業務や、平日の深夜・早朝の業務について、夫婦の一方は業務を離れて自由な時間利用ができたと認められるとして減額したほか、一部の日は就労していないとして減額した。しかし、Y社が、労働時間から控除すべきであると主張した、Xらの所定時間内における近隣の病院への通院と犬の運動に要した時間については、それはXらの業務遂行がその日常生活と一体をなすものであった等として労働時間性を認めていた。
〈判決の要旨〉
最高裁は、労働者が実作業に従事していない時間(「不活動時間」)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、「労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」、そして、「不活動時間において労働に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる」とした上で次のように判示する。
事実関係によれば、Y社は、Xらに対して、所定労働時間外においても、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉、テナント部分の冷暖房装置の運転の開始及び停止等の断続的な業務に従事すべき旨を指示し、Xらは、上記指示に従い、各指示業務に従事していた。また、Y社は、Xらに対して、午前7時から午後10時までの時間は、住民等が管理員室の照明を点灯しておくように指示し、マニュアルにも、Xらは、所定労働時間外においても、午前7時から午後10時までの時間は住民等が管理員による対応を期待し、Xらとしてもその要望に随時対応するために、「事実上待機せざるを得ない状態に置かれていた」ものであり、Y社はXらのこの対応を管理日報の提出により認識していたことを考え併せると、「住民等からの要望への対応についてY社による黙示の指示があったものというべきである。」したがって、平日の午前7時から午後10時までの時間は不活動時間を含めて労基法上の労働時間に当たるとした。しかし他方、土曜日について、Y社は、Xらに対して1人体制で執務するように明確に指示し、Xらもこれを承認していたのであり、業務量も1人で処理できないようなものであったともいえないのであるから、土曜日についてはXらのうち1人のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当である。また、病院への通院、犬の運動に要した時間については、Y社の指揮命令下にあったということはできないとして、原判決中のY敗訴部分を破棄して、原審に差戻しを命じた。住込みマンション管理人に関わる不活動時間の労働時間性について、1人体制での執務、生活の中に含まれる私用行為を含めて、その基準を示したものであり、重要な意味を有する判例である。
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