867号 労働判例 「PE&HR事件」
             (東京地裁 平成18年11月10日 判決)
会社との間でパートナー契約を結んでいた者の管理監督者性が否定され、
パソコンのログデータで労働時間が推定された事例

管理監督者性とログデータによる労働時間の推定

  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Y会社(被告)との間でパートナー契約を結んで就労していたXが、勤務期間中の時間外労働賃金、過重労働とY会社代表者の暴言等により体調不良になったとして治療費と精神的損害等を求めたものである。Xは、インターネットを通じてYの求人を知り、これに応募して採用された者である。Xは、平成17年4月から就労したが、Y社からの内定通知では職制を「パートナー」とし、勤務時間は「9時ー18時」とされていた。なお、Yは、従業員が10人に満たない会社であり、就業規則は制定されていなかった。また、本件紛争当時、パートナー以外の一般従業員はいなかった。Y社においては、代表取締役のほか、実働人員の仕事を管理部門と営業部門に分け、管理部門には経営企画、経理・労務、公報・採用(中途)、採用(新卒)があり、営業部門はファンド、コンサルティング、人材紹介、オフイス、代理店、セミナー、新規事業に分けられていた。Xは、管理部門としては経理・労務を担当し、営業部門にあってはオフィス担当の職にあったが、部下はいなかった。Y社では、タイムカード等による出退勤管理・時間管理は行われておらず、日課として朝9時過ぎにスタッフ全員が集まって予定を確認しあい、日中はホワイトボードで勤務状況を明らかにする方法がとられていた。
 Xは、同年9月に入ってから、Y会社代表者から仕事に関連してしばしば叱責を受けるようになり、そのためやる気を喪失し、同月末でYを退職した。
 〈判決の要旨〉
 まず、Xの管理監督者性について裁判所は、次のように判断している(Yは、Xが労基法における労働時間、休日に関する規定が適用除外される者である、管理監督者であり、Xには時間外賃金は発生しないと主張していた)。「管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者と定義される」ところ、ライン管理職だけではなく、ライン上にはないスタッフ職をも包含するが、XについてYから出退勤時刻の厳密な管理はなされていたようには思われないものの、@出勤日には社員全員が集まりミーティングでお互いの出勤と当日の予定を確認しあっており、実際の勤務面における時間の自由の幅は相当狭いものであったと見受けられること、A時間外賃金はがつかないかわりに管理職手当、特別手当が付いているとの事情もなく、月額支給の給与額(28万円)もそれに見合うものではなかったこと等からすると、Xが、適用除外対象者たる管理監督者とは認めることはできない、と。
 問題は、Xが何時間の時間外労働をしたかである(Xの時間当たり単価は、Yの月総労働時間数〈8×256日÷12〉を月例給与28万円で除して1641円26銭と算定されている)。この点、裁判所は、Xの手帳に記載されていた始業・終業時間はXの主観的な認識によるもので、必ずしも正確なものとはいえず、全面的にこれによることはできないとした上で、デスクワークをする人間は通常、パソコンの立ち上げと立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを経験的に推認できるので、他に客観的な時間管理資料がない以上、その記録を参照するのが相当というべきであるとして、パソコンのログデータで労働時間を推定している(例えば、平日については、Xのパソコンの立ち上げ時刻が午前9時前のときは同時刻まで早出残業時間、立ち下げ時刻が18時以降のときは同時刻以降の居残残業時間、立ち下げ時刻が22時以降の分は深夜残業時間とし、出勤が午前9時以降の場合、あるいは退勤が18時以前の場合でも、当日の勤務時間が休憩1時間を除く8時間を超える場合には、残業時間とされる)。なお、Y会社代表の「暴言」による体調不良ついては、Xの業務遂行態度、考え方の改善を促したもので不法行為とは評価できないとして慰謝料請求については棄却された(新株予約権については省略)。
 本件も、管理監督者として時間管理の適用除外が認められるかどうかが争点となったものであるが、この点、裁判所は、従来の考え方を踏襲して厳しくみていることがうかがえる。

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