858号 労働判例 「アクト事件」
              (東京地裁 平成18年8月7日 判決)
店舗マネージャーの時間外・深夜労働と割増賃金
  解 説
 〈事実の概要〉
 被告Yは、飲食業を行う会社であり、原告Xは、平成11年12月24日にYに入社し、Yの関連企業の経営する飲食店でマネージャーあるいは店長として勤務していたが、平成17年2月8日にYを退職した。本件店舗では、勤務時間は2つのシフト制(午後2時から翌日午前0時までの早番と、午後4時から翌日午前2時までの遅番)であったが、いずれも30分ないし40分早く出勤するように指示され、また客が帰るまで在店するように言われていた。Yの就業規則(賃金規定)によると、Yの賃金は、基本給、職能手当、役職手当からなるが、役職手当は、主任、サブマネージャー、サブチーフ、マネージャー、チーフ、および店長には(この順に従って手当額に段階が設けられている)、店舗の規模に応じて支給されることになっていた(平成16年1月26日から17年2月8日までのXの賃金は、基本給17万円、職能手当5万円、役職手当9万5000円、合計31万5000円であった)。本件は、Xが、労基法41条2号にいう管理監督者ではないにもかかわらず、管理監督者として時間外労働および深夜労働を行ったことにつき割増賃金が支払われていないとして、その賃金およびそれと同額の付加金を請求したじものである。
 Yの関連企業の経営する飲食店では、アルバイト従業員について店長とマネージャーが面接して採用を決めていた(マネージャーが同時に採用することもできたが、店長と意見が異なる場合には、店長とマネージャーが合議し、最終的には店長が決定していた)。アルバイト従業員の人数、時給も店長とマネージャーが決定していたが、他方、各店舗の売上の28%で、店長を含む正社員、アルバイト従業員の人件費を賄うというY代表者が決めた制約があり、アルバイト従業員のシフト(勤務計画、勤務表)もこの制約の下で作成されていた。Yの正社員採用権限は、店長等にはなく、Yの代表者にあった。Yの正社員の賞与、報奨金の査定は、上位の者が下位の者の査定について意見を述べて決められていたが、賞与の決定は原則として店長、チーフが行っていたが、マネージャーにも決定権があった。また、各店舗の営業時間はYが決めていたが、店舗の営業状態に応じて変更されることもあったが、マネージャーには営業時間を決める権限はなかった。各店舗の運営に関しては、Yでは、各店舗の店長、チーフ、マネージャー、Y代表者および部長が参加する店舗ミーティングが月に1回行われ、各店舗の運営状況、売上状況等の問題や改善点が話し合われ、また3ヵ月に1回程度、同様の全体ミーティングが行われ、賞与の金額、評価基準を含め給料に関することが話し合われていた。 
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労基法41条2号にいう管理監督者について、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者の意味である」としたうえで、「管理監督者であるといい得るためには、就業時間や職務の遂行について相当程度の自由な裁量があること、部下の人事や経営の重要な事項を知り、それについてのある程度の決定権があることが必要である」としている。この点から、Xのマネージャーとしての権限等をみていくと、@アルバイト従業員の採用、シフトの作成について決定権などの権限はあるものの、人件費は各店舗の売上の28%というY代表者の決定した制約の下におかれ、また、Yの正社員の採用権限はない、Aマネージャーには下位の従業員の報奨、賞与について査定ができるものの、最終的な決定権はない、BYで定期的に開催される幹部会議で店長やマネージャーが発言権を持っていたとしても、それによってYの人事や経営に関する重要な事項の決定に参画していたとまではいい難い、CXは、マネージャーとしてアルバイト従業員のの管理、客のクレームの処理などをしていたが、接客業務の内容はアルバイト従業員と変わらず、開店前の店内の掃除、後片付けなどもアルバイト従業員と同様に行っていた、Dマネージャーの処遇についてみても、基本給において一般職よりも厚遇されているわけではなく(むしろ賃金額は一般職よりも低い場合がある)、役職手当が支給されているが、その額は定額時間外深夜手当を含めてみれば、せいぜい1万5000円にとどまっており、職能手当についてみてもその差額は平均的な4でみると、2万円にすぎず、時間外労働の割増賃金が支払われないことの代償として、十分な処遇がなされていたとはいえない。以上の点からすると、Xは、その権限に照らしても、処遇に照らしても労基法41条2号にいう管理監督者に該当するとはいえない。
 権限および処遇の点からして管理監督者でない者を管理監督者として扱った場合、使用者としては付加金を含めてかなり厳しいしっぺ返しを受けるということである。

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