847号 労働判例 「日本アグファ・ゲバルト事件」
             (東京地裁 平成17年10月28日 判決)
整理解雇の適法性の判断基準
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、印刷業界および医療専用の写真・デジタル画像システム、ならびに各種デイスプレイ用導電性高分子フィルムなどの各種事業を営んでいるY社で、経理部の財務課係長であったXが、会社の財務状況の悪化等を理由に人員整理され、その解雇を違法であるとして争ったものである。
 Xは、Y社に昭和53年3月に入社し、約20年間物流部(管理部門)において内勤業務に従事した後、事業部を経て経理部財務係長として勤務していたが、平成16年7月21日、Yから退職勧奨を受けた。このとき、口頭で特別加算金を含む退職金の提示があった。Xは、その後もYから退職の交渉を受けたが、退職には応じなかった。このことから、平成16年9月16日に、同年10月16日付けで解雇する旨の通知を受け、解雇された。Y社の就業規則には、「会社は止むを得ない理由がある」ときは解雇できる旨の条項があるが、Xは、本件解雇は就業規則にいう「止むを得ない理由がある」ときには該当しないとして、解雇権濫用に当たるとして解雇無効を訴えた。これに対して、Yは、売上高の低下と累積赤字が13億5000万円に達していることや、業績が悪化していること、また、事業の縮小などで業務量が減少し、余剰人員が生じていた等の理由で、Xの解雇は「止むを得ない理由」に該当し、有効であると主張していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、整理解雇について、「使用者側の事業上の都合を理由とし、解雇される労働者の責に帰することができないのに、一方的にその収入の手段を奪い、労働者に多大な不利益を及ぼすものであるから、当該解雇が合理的で社会通念上も相当といえるか否かは、人員削減の必要性、解雇を回避するための努力、解雇対象者の選定の合理性、解雇手続の相当性等の諸点を総合考慮して判断するのが相当である」として、いわゆる整理解雇4要件説で取り上げられた4つの事項を例示しながら(その意味で、本判決は、整理解雇4要件説をとっていない)、以下で、それらの事項が本件解雇に関連してどのように取り扱われたかを具体的に検討している。
 まず、人員削減の必要性については、デジタル化によるアナログフィルム市場の縮小や経済不況により事業の大幅な縮小を余儀なくされていたことは認められるものの、当該企業のグループに対する貢献度を示す業績指標が目標値を上回ったとして、従業員に対して総額1億円に上る業績賞与を支給しており、その経営が逼迫していたとまで認めることはできない、とする。また、営業部門を中心とする事業の譲渡等により、管理部門の業務量が減少し、同部門において人員の余剰が発生していたとも主張するが、Yでは、どの部門でどの程度の余剰が生じ、かつ具体的に何名の削減が必要か正確に把握していたわけではない。
 解雇回避努力については次のように判示する。本件解雇に関しては、従前と異なり、希望退職者の募集も実施されていないうえ、Yにおいて、時間外労働の規制・調整や契約社員、派遣社員を含む経理部所属の従業員の業務分担の見直しを行った形跡、Xの配転・転籍の可能性について真摯に検討した様子もなく、Yが、解雇を回避するための努力を行ったとするのは困難である、と。
 さらに、人選の合理性に関しては、契約社員や派遣社員については全く解雇の対象とはせず、正社員であるXをあえて解雇の対象にしたことは、その年齢を考慮しても(58歳9ヵ月と定年年齢に近かった)、不合理であるとする。
 Yは、たしかに、特別退職加算金の支給のほか、再就職支援に要する費用相当額を含め、可能な限り退職金の加算を提示するなど、Xの了解を得るために相応の努力をしていることは認められるものの、これを考慮しても、上記の点からして本件解雇を社会通念上相当とはいえず、解雇権を濫用するものとして無効と結論づけている。本件解雇については、Yの側にやや安易な対応が見られ、これを裁判所で鋭く指摘されたものといえる。

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