788号  労働判例 「京都信用金庫事件
                  (大阪高裁 平成14年10月30日 判決)
                  移籍元企業への復帰とその条件
解説
 〈事実の概要〉
 Xらは、Y(京都信用金庫)の従業員であったが、昭和63年7月1日付けでYから株式会社キョート・ファイナンスに、移籍出向を命じられ、その後何回かの出向延長に同意して平成10年に至り、同年6月30日で移籍出向期間が満了することになっていた。X1は、昭和62年3月9日から現在まで、X2は、平成3年6月から平成8年10月まで、それぞれキョート・ファイナンスの取締役としてその経営に参画している。
 Xらは、前記移籍出向を命じられる際及びその期間延長・更新の際、「確認証」と題する書面によって、身分の保全を受ける確認を得ていた。その内容は、次の通りである。@移籍出向期間中の給与は、Yにおける継続勤務と同等額を保障する。A移籍出向を解き、Yに復帰したときは、Yにおける継続勤務と同等以上の職位に任ずる。B移籍出向期間は3年とし、移籍出向がなお継続を要する場合は、職員にその事情を説明の上、Y職員会議(Yにおける労働組合的存在)を交えた3者協議を行い、その承諾を得て移籍出向期間を延長することがある。ただし、その際、本件確認証によって、移籍出向職員の身分の保全について、職務規程違反による解雇の場合はこの限りではない旨も確認されていた。この点、Yの就業規則では、「(職員に)背任行為の事実が認められたとき」、また、「権限の濫用又は越権行為によりYに損害を与えたとき」を諭旨退職又は懲戒解雇事由と定めている。
 Xらは、平成10年6月30日の移籍出向期間満了に伴い、あらかじめYに復職の申し出をしたが、Yはその申し出を拒否した。本件は、これに対して、Xらが、それぞれ移籍出向期間満了に伴いYの従業員に復帰したとしてその雇用契約上の権利を有することの確認を求めたものである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、まず、前記「確認証」が作成された経緯・その内容からして、「移籍出向ではあるもののあたかも在籍出向のごとき身分を約束するものとして本件確認証が作成されるに至ったものである」とした上で、その趣旨は、「XらによるYへの復帰について申し出があるにもかかわらず、期間の延長について3者間で協議がなされ、Yによる理由の説明がされなければ、本件確認証ただし書等の適用除外事由が存在しない限りは、移籍出向期間満了により移籍出向という効果がなくなり、Xらは移籍出向前の状態であるYの職員に復帰するという趣旨の約定であると解するのが相当である」とした。
 次に問題になるのが、本件確認証ただし書の趣旨及びXらに適用される就業規則が何かであるが、この点につき裁判所は、本件出向が移籍出向である以上、Yの就業規則はXらには適用されず、そうすると本件確認証ただし書にいう職務規程違反による解雇というのは、出向先であるキョート・ファイナンスによる懲戒解雇を指すことになり、Xらがこの要件に該当しないことは明らかであるとする。なお、判旨は、本件確認証には明記されていないものの、雇用契約の性質上、Xらがその出向中にXらとYとの間の信頼関係を破壊したことにより、YにおいてXらが復帰した後の雇用契約を維持することが困難となった場合、すなわち、Xらがその悪意又は重大な過失によりYとの間の信頼関係を破壊するに至った場合には、信義則上YとしてはXらの復帰を拒否できるとしたが、このような事情は存在しないとして、Xらの請求を認容した原審判断を妥当としている。
 移籍出向ではあるが、本件では、身分を保全し出向元企業への復帰を保障する確認証によってあたかも在籍出向のような形になっている。移籍出向である以上は就業規則については判旨が述べるように、出向先企業のものが適用されるという以外にはないと考えられるが、他方で、雇用契約の性質上、Xらがその出向中にXらとYとの間の信頼関係を破壊するようなことがあれば、復帰後の雇用契約の維持は困難になるとも判示されており、妥当なものと思われる。


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