No778号労働判例 「社会福祉法人さくら事件」
                 (神戸地方裁判所姫路支部 平成14年10月28日 判決)

              職員としての適格性の欠如を理由とする普通解雇の効力

解説
 〈事実の概要〉

 本件は、重度身体障害者更生援護施設を経営する社会福祉法人の正職員
であったXら2名が、職員としての適格性を欠くとしてなされた普通解雇
につき、当該解雇は無効であるとして雇用契約上の地位確認および解雇後
の賃金の支払を求めたものである(本件では、2名の解雇が問題となって
いるが、紙数の関係で、以下ではそのうちの1名についてのみ取り上げる)。
 Xについて以下のような事柄が解雇事由とされている。@平成8年6月
12日の職員会議での寮母Hの「理事長が公私混同をしている」旨の発言
でHがN施設長から呼び出しを受け辞職を告げられたことに関連してXが、
同月18日、勤務時間中に持ち場を離れ、施設長室のドアを蹴飛ばして怒
鳴り込み、N施設長に何か侮辱的な言葉を吐いて施設長室を出ていった(
後に、Xは1か月10%の減給処分)、A歯痛で辛抱できないと言ってい
るOをすぐに歯医者に連れて行かなかったこと(副施設長がOを歯医者に
連れて行った)、B平成10年9月29日の朝の業務打ち合せで女子利用
者の入浴の介助をXが行う予定であったが、、副施設長が女子の職員がい
るのに女子の入浴の介助を男性職員が関わるのは適切ではないとの注意し
たのに対して、Xが「現場を知らないでガタガタ言うな」などと発言した
(後にXは、始末書を書いている)、Cテレビゲーム等に夢中になり食事
に遅れてくるKに対する食事を取り上げた件、DPに対して頭や首を叩い
たり、髪の毛をひっぱたりして同人から抗議を受けていたこと(到底スキ
ンシップとは言えるようなものではないとされている)、E平成12年3
月に、業務分担(ゲートボール大会の行事担当)を外してほしい旨の要求
を行って注意を受けたこと(裁判所は、たとえそれが業務命令違反に当た
るとしても重要なものではなかったとしている)、F平成12年4月24
日、Xを生活指導員から解任するとの辞令をH施設長やN副施設長がXに
手渡そうとしたところ、Xがそれを拒否し(解任辞令を解雇辞令と誤解し
たことが原因とされている)、2人に暴言を吐いたこと、その翌日も反省
の弁や謝罪の言葉がなく、反抗的な行動と態度がみられたことである。

 〈判決の要旨〉
 裁判所は、上記の理由を挙げてのXの解雇について、次のように判断し
ている。原告Xには、上司を軽視したり、自分の思い通りにならないと上
司の指示を拒否して自分の考えを強引に押し通そうとする傾向が見受けら
れ、組織の一員として不適格とみられてもやむを得ない面があるが、@で
は侮辱的発言を受けて減給処分を受け、Bでは始末書を書いてからEで注
意を受けるまで、1年半近くの間、処分の対象となる行動をとっていない。
また、FでのXの行動は、解任辞令を交付するに当たって、H施設長やN
副施設長が解任の理由を一切説明せず、「お前等みたいなものとは話をす
る気はない」などと適切な対応をしなかったことに誘発された余地があり、
この件をもってXが職員としての適格性を欠くものと認めることはできな
い。たしかに、Yが解雇の事由として挙げたものは1つ1つをとってみれ
ば、正当な解雇事由とはいえないものであるが、これらの事実を併せ考え
ると、重度身体障害者更生援護施設の生活指導員としてはもとより、職員
としての適格性に疑問を抱かせる行状が多く、YがXを解雇したのも強ち
不合理とは言えない面がある。しかし、平成12年4月24日の段階で、
Xに反省を促して様子をみるつもりであれば、その翌日に直ちに解雇を決
断するという対応に理解しがたいところがあり、本件解雇に合理性ないし
相当な理由があるとは言えない、と。施設の生活指導員としての職務が上
司、他の職員との協調を前提とすることを考えると、Xの職員としての適
格性を全体としてみる視点が必要であったとも思われる事案である。


BACK