680号  労働判例   「塩野義製薬事件」
                           (大阪地裁 平成11年7月28日決定)

               男女の賃金差別

解 説

<事実の概要>  

本件は、女性に対する賃金差別を理由とする損害賠償請求事件であり、約3,000万円の支

払いが命ぜられたものである。 被告会社は、医薬品の製造販売および輸出入を業とする

株式会社であり、原告は、被告会社に昭和40年4月に正社員として雇用され、平成7年6月

に退職した者である。本件は、退職後に提起されたものである。

原告は、薬科大学を卒業し、被告会社に入社後、一般事務職とされる「ドラッグ・インホメーシ

ョン(DI)担当者」として配属され、昭和54年6月に製品担当となり、平成3年4月、48歳で課長

待遇に昇進し、平成7年に退職に至っている。
被告会社の給与システムについては、役付者については待遇別(部長待遇、次長待遇、課長
待遇)に、一般従業員については職務レベル別に能力区分を設定し、20種類の能力給区分
がある。原告は、区分11であったが、課長待遇になることにより能力給区分4になった。

原告は、損害賠償の根拠として、@使用者は労働者を平等に取り扱う労働契約上の義務を

負っており、昭和60年から平成7年7月1日から平成7年6月末日まで女性であることを理由

に、男女で異なる供与の支給決定及び運用をしたことにつき、債務不履行があり、また、A
同一価値労働同一賃金という公序に違反しており、被告会社には不法行為責任が発生して

いるとして、B過去10年間の賃金差額及び退職金差額、慰謝料(500万円)、弁護士費用

(480万円)の計4,667万円を請求した。 なお、被告会社側の反論については、判決文に
より確認して頂きたい。
 
<判決の要旨>

判決は、(1)原告の入社時の職種等、(2)原告の担当業務、(3)課長待遇への昇格、(4)評価、

査定および昇給額について、それぞれ事実認定を行ったうえで、(5)原告に対する男女差別

の有無についての判断をしている。 判決は、@被告会社が、昭和54年6月、原告を、その

職種を変更して製品担当としたのであるから、男女に同じ職種を同じ量及び質で担当させる

以上は、原則として同等の賃金を支払うべきであり、A基幹職を担当していた同期担当5名

の能力給との格差が少なくなかったことからすれば、生じていたその格差を是正する義務が

生じたものいわなければならず、Bその是正義務を果たさないことによって生じた格差は、

男女の差によって不合理なものといわなければならず、女性であることのみをもって格差を
設けた男女差別と評価しなければならない、と結論づけている。
次に、判決は、この賃金差別が不法行為を構成するか否かにつき、@労基法4条は、男女
同一賃金の原則を定めるところ、使用者が男女を同一の労働に従事させながら、女性である
ことのみを理由として賃金を発生させた場合、使用者にはその格差を是正する義務があり、

Aこの是正義務を果たさない場合には、男女同一賃金の原則に違反する違法な賃金差別と

して、不法行為を構成するが、B本件においては、被告会社は、かかる是正義務を果たして

おらず、過失による不法行為が成立する、と評価している。
なお、判決は、不法行為の成立を認めた為、債務不履行の有無については、特に判談を加え
ていない。判決は、賃金差額の計算について、同期男性5名との経歴の差、原告の能力給が
同期男性5名の平均に達するとまで認めることができないにと等にもとづき、原告が差別され
なければ支払われたはずの賃金は、同期男性5名の能力給平均額の9割に相当する額にす

ベきとしている。さて、本判決については、男女の賃金格差について是正義務を認めている

こと、職種がかわると男女の対比で直ちに賃金額を変更しなければならないことを認めている
ことなど、検討すべき問題が提示されている。
                              
                     主  文
一.被告は、原告に対し、2,988万6,400円及びこれに対する平成7年10月7日から支払
   済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二.原告のその余の請求を棄却する。
三.訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四.  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。


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