1206号 「福屋不動産販売事件」
       (大阪地方裁判所 令和2年8月6日 判決)
同業他社への転職勧誘行為に違法性があったとしてなされた懲戒解雇等の有効性が争われた事例
同業他社への転職勧誘行為と懲戒解雇の有効性
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、不動産の販売・賃貸・仲介等を行うY社(被告)に雇用されていたX1、X2およびX3(原告)が、Y社による懲戒解雇処分を無効であるとして、地位確認と賃金支払い、慰謝料等を請求したものである。
 X1およびX2は、それぞれY社に平成10年、14年に採用され、同社の不動産販売等に従事してきた。平成29年当時、X1は同不動産販売(奈良)の本部長であり、X2は、同社の支店の店長であった。X1は、平成29年6月頃、X2に同業他社であるC社に転職することを伝えて同社への転職を勧誘した。また、両者はY社の営業・事務職員の一部にY社を辞めてX1と事業を行うことを勧誘した。同年8月末、X1はY社に同年12月20日をもって退職する旨の退職届を提出したが、Y社は、同年9月17日、X1とX2のそれぞれの事情聴取を行った結果、従業員の引抜きや転職先の営業店舗を探す行為があったとして、就業規則に基づき、同年9月29日付けで懲戒解雇を行った(「本件解雇1および2」)。なお、X1およびX2は同年12月頃にC社と労働契約を締結して、X1は本部長、X2はL1店店長として就労している。またY社の従業員であった者6名がY社を退職し、C社で就労している。他方、X3は、Y社に平成17年に採用され、29年当時、別の支店の店長の地位にあったが、同年3月に同社が売却を売却していた土地および建物について自己の居住用に購入したいと申し出て、社員売買割引制度規程に基づいて、仲介手数料を免除されて購入した。その後、同年8月末にY社に対して退職を希望しており、退職の時期については迷惑がかからないように会社に任せる旨伝えた。ところでY社の社員不動産売買届出規程は、社員が対象物件を転売目的で取得することを禁じているところ、X3が、他の社員に本件宅地・居宅を転売したい旨を述べたことがあったことから、X3の事情聴取を行って、虚偽報告や服務規律違反があったとして、同年10月13日付けで懲戒解雇を行った(「本件解雇3」)。 
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、X1、X2に対する解雇1および2については次のように述べて、懲戒解雇該当性を肯定している。すなわち、X1およびX2は、Y社の重要な地位にありながら、同社の従業員等に「引き抜き」のための労働条件上乗せや300万円もの支度金を提示するなどして同業他社であるC社のために転職の勧誘を繰り返したことは、単なる転職の勧誘にとどまるものではなく、Y社の就業規則にいう「組織の原則を守らない逸脱行為」に当たり、また「会社の命令又は許可を受けないで、他の会社・団体等の・・・営利を目的とする業務にを行う」行為に当たる。そして、解雇の合理性・相当性についても肯定している。これに対してX3の懲戒解雇については、X3が、結果的には、本件宅地・建物に現在に至るまで居住し続けており、懲戒事由に該当するとしても解雇が社会通念上相当とまでいえないとして、無効と判断している。
 なお、転職・引抜きについて、有名なラクソン事件(東京地判平成3・2・25労判588号74頁)は、(従業員の)転職の自由は最大限に保障されなければならないが、その引抜きが単なる転職の勧誘の域を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合には、それを実行した会社の幹部従業員は、雇用契約の誠実義務に違反したものとして、債務不履行あるいは不法行為責任を負うとしている。

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