1199号 労働判例 「国・津山労基署長(住友ゴム工業)事件」
              (大阪地方裁判所 令和2年5月29日 判決)
契約ライダ−(テストライダ−)が労災保険法上の労働者と認められた事例
契約ライダ−の労働者性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、Y社(住友ゴム工業)の実施する二輪車用タイヤの開発テストにおいて、テストライダ−として、バイクを運転してサ−キットコ−スを周回走行する業務に従事していたX(原告)が、平成29年5月20日のテスト走行中に転倒する事故(本件、「転倒事故」)により受傷し、後遺障害が残ったことにつき、津山労基署長(処分行政庁)に対して労災保険法に基づく療養補償給付、障害補償給付および介護補償給付の各請求をしたところ、処分行政庁は、Xが本件会社の労働者に該当しないとして、これらはいずれも支給しない旨の処分(本件各処分)をしたことから、被告国に対して、本件各処分の取消しを求めたものである。
 Xは、昭和40年生まれの男性であり、オ−トバイの国際A級ライセンスを取得して、国際A級バイクレ−スに出場した経験を有する者である。本件会社はタイヤ製造販売等を業とする会社であり、本件会社のタイヤ技術本部*実験部は、茨城県所在のA研究所のBテストセンタ−等において二輪車用のタイヤ開発テスト(開発テスト)を実施している。開発テストの主たる内容は、市販タイヤの磨耗テストであり、Bテストセンタ−のコ−ス等においてタイヤを装着したバイクをテストライダ−に一定時間走行させ、必要なデ−タを取る方法により行われるものである。開発テストは1年間に5、6回程度実施されていたが、本件会社は開発テストの実施に先立ち、連絡調整役の契約ライダ−であるDに連絡し、参加する契約ライダ−を集めるように要請し、Dは知り合いの契約ライダ−に参加を打診していた。Xと本件会社は、平成19年頃以降、1年ごとに「タイヤ開発テスト委託契約書」を作成し、本件事故当時も平成28年12月29日付けで「タイヤ開発テスト委託契約書」が作成された。開発テストは、通常、本件会社の定めた2日間または3日間の日程で実施されており、人員体制は、本件会社の社員である班長1名、社員ライダ−1名、契約ライダ−5名程度であった。班長は、現場における監督の役割を担っており、本件事故以前から本件会社の社員であるEが務めていた。テストライダ−には、開発テストの初日にEから本件会社作成の予定表が知らされていた。予定表には開発テストの日ごとに、走行する時間帯、周回数、走行方向および走行の順番、乗車するバイクおよび装着するタイヤの種類等が記載され、そのなかに各テストライダ−が組み込まれていた。開発テストの当日は、社員ライダ−および契約ライダ−が午前8時にコ−スに集合し、全員が参加してラジオ体操を行うのが通例であった。また社員ライダ−および契約ライダ−は、ラジオ体操後に行われる朝礼に参加することが義務付けられていた。社員ライダ−および契約ライダ−は、午前9時の開始時刻から午後4時半または5時の終了時刻まで、予定表における割当てに従って、順次、コ−スを走行するテスト走行に従事した。テスト走行中では、Eから各テストライダ−に対して、都度、コ−ナ−ごとの速度や天候に応じた速度調整ないし走行中止といった具体的な走行方法について指示がなされていた。テスト走行の終了時点では、社員ライダ−および契約ライダ−を集めた終礼が行われ、Eから翌日のテスト走行の予定が連絡された。契約ライダ−がテスト走行に用いるバイク・タイヤはすべて本件会社が用意していた。テスト走行時に着用する防具等は、契約ライダ−が個人で用意しており、本件会社から防具等の種類やメ−カ−の指定はなかった。契約ライダ−の報酬は、委託契約で1日当たりの金額が定められ、昼休憩が長くなった場合でもこの金額が増減されることはなかった。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、まず労災保険法上の労働者が労基法9条の労働者と同一であるとした上で、労働者性の判断基準として、@労務提供の形態、A報酬の労務対償性、B労働者性の判断を補強する要素を勘案して総合判断する必要がある旨述べて、それぞれについて判断している。Bについて事業者性の程度を、機械・器具の負担関係、報酬の額、損害に対する責任、専属性の程度、その他の事情(報酬について給与所得として源泉徴収を行っていること、労働保険の適用対象としていること、服務規律を適用していることなど)を指摘している。契約ライダ−について労働者性を肯定する結論は事例として今後の参考になろう。

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