1195号 労働判例 「学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件」
              (最高裁第3小法廷 令和2年10月13日 判決)
アルバイト職員と正社員の労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないとされた事例
アルバイト職員と正社員の労働条件の相違と労働契約法20条

 解 説
 〈事実の概要〉
 令和2(2020)年10月の半ば(13日と15日)に、最高裁は相次いで旧労働契約法(労契法)20条に係わる5つの事件で重要な判断を行った。今回はそのうちの一つを取り上げる(次号では、日本郵便事件〔東京〕事件を取り上げる予定である)。
 本件の高裁判決は、すでに本誌1172号(令和2年5月5日号)で取り上げたが、この控訴審では、賃金(基本給)については、1審と同様にX(原告・控訴人)の主張は斥けられたが、「賞与」については、正社員の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理であるとし、夏期特別有給休暇について、Xのように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対して、正社員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことも不合理な相違であるとし、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないことも不合理であるとされた。
 これに対してY大学側が上告していた。結論的には、一部棄却、一部破棄自判であるが、実質的にはX側の敗訴といえるものであった。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、旧労契法20条について、次のように判示する(なお、この条文は、現在では削除され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の8条に若干の文言修正のうえ規定されるに至っている。大企業では令和2年4月から施行され、中小企業でも令和3年4月から施行される予定である)。同条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が賞与の支給にかかるものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられるが、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価するすることができるものであるか否かを検討すべきであるとした。そして、Y法人では、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に対して賞与を支給することとしていた、と。問題は、Xにより比較の対象とされた教室事務員である正社員とアルバイト職員であるXの業務の内容は共通する部分はあるものの、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できず、また両者の職務の内容および配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できないと判断された。また、アルバイト職員については、契約職員および正社員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられており、この点については、教室事務員である正社員とXとの労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労契法20条所定の「その他の事情」として考慮される、と。結局、教室事務員である正社員に対して賞与を支給する一方で、アルバイト職員であるXに対してこれを支給しないという労働条件の相違は労契法20条所定の不合理と認められるものには当たらないと結論づけられた。また、アルバイト職員は、長期雇用を前提として勤務を予定したものとはいいがたいことに照らせば、雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえず、教室事務員である正社員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイト職員であるXに対してこれを支給しないという労働条件の相違は労契法20条にいう不合理とは認められない、とされた。他方、夏期特別有給休暇の日数分の賃金に相当する損害金5万5100円と弁護士費用相当額5000円については認容している。
 教室事務員である正社員とアルバイト職員であるXとを比較して、両者に職務の内容および配置の変更の範囲に一定の相違があること、さらに試験による登用制度が設けられていることを「その他の事情」として重視した判断結果であるが、司法による不合理な格差是正について、積極的に介入して是正することについては消極的な姿勢を示したものであるともいえる。

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