1191号 労働判例 「国・茂原労基署長(株式会社まつり)事件」
              (東京地方裁判所 平成31年4月26日 判決)
不正脈による死亡が業務上と認められたAの死亡につき、
遺族補償年金等の算定の基礎である給付基礎日額の算定に誤りがあるとして
その処分の取消を求めた事例
固定残業代と給付基礎日額の算定

 解 説
 〈事実の概要〉

 A(昭和34年生まれ)は、調理師として勤務していた本件会社の和洋食レストランで不正脈により死亡したが、その死亡については、その妻であるX(妻)の請求により業務上と認められた。本件は、Aの死亡につき支払われる遺族補償年金、葬祭料の算定の基礎である給付基礎日額につきY労基署長から(何度か修正された後、最終的に)、1万3330円とする旨の支給処分を受けたが、本件は、Aの勤務していた会社から支給されていた超過勤務手当、深夜業手当を固定残業代であるとして計算していた誤りがあるとして、その妻であるX(妻、原告)がその処分の取消を求めたものである。
 本件会社では、Aに対して、月額31万4100円の賃金を支払っていたが、その内訳は、基本給、役職手当、超過勤務手当(10万円)、深夜業手当(5000円)、通勤手当から構成されていた。本件の具体的な争点は、@本件固定残業代を通常の労働時間の賃金として、割増賃金の基礎賃金に算入することの可否、およびそれらの算入の前提として、本件固定残業代が本件雇用契約の内容になっていたか否か、A割増賃金額の算定基礎である本件算定期間中の労働時間数、である。この点、Xは、本件固定残業代等の特定の手当を固定残業代とする旨の合意はしていない、本件雇用契約についてはそもそも契約書が作成されておらず、本件会社は一方的に各手当の内訳を決定して給与を支払っていた、Aが毎月100時間を超える時間外労働を行っていたという就労実態からすれば、本件雇用契約において本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたということはできない、したがって、本件固定残業代は通常の労働時間の賃金として算入すべきで、割増賃金の基礎賃金に算入すべきと主張した。これに対して、Yは、本件固定残業代は、その名称(超過手当、深夜業手当)からすれば、社規通念上、超過手当が時間外労働に対する手当、深夜業手当が深夜労働に対する手当と認識することができる、本件会社および被災者は、本件固定残業代が時間外労働等の対価として支払われていることをそれぞれ認識していた、さらに超過手当10万円は約67時間の時間外労働に対する基礎賃金にに相当するところ、仮に本件固定残業代が時間外手当に含まれないとすると、月額基本給は31万円となり、予測されていた時間外労働約67時間に対応する時間外手当は約15万円となる、このような事情は本件会社および被災者との間で時間外労働等の対価として本件固定残業代を支払う旨の合意があったことを推認させるというべきである等と反論していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように述べた。給付基礎日額は、労基法12条の平均賃金に相当する額とされている(労災法8条1項)。問題は、労基法12条にいう「その労働者に支払われた賃金の総額」が何を意味するかであるが、判旨は、現実に既に支払われている賃金だけではなく、実際に支払われていないものであっても、算定事由発生日に「労基法の適用上支払われるべき債権として確定している賃金債権をも含む」としている。そしてわずか4ヵ月程度の給与明細書の交付と本件固定残業代の受領のみをもって、本件雇用契約の締結に当たり、本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われることについて、その内容を理解した上で応諾するに至ったことを推認することはできないとしている。超過手当において想定される時間外労働数(約67時間)と被災者Aが実際に行った勤務状況から窺われるそれ(約123時間ないし約141時間)との間に2倍もの大きな乖離があり、これも、本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われていないことを推認させるものであるとしている。そして結論として、平均賃金の算定において本件固定残業代を通常の労働時間の賃金として算入し、さらに、それに基づいて算出した割増賃金をも算入する、としている。固定残業代という形での時間外労働代の支払い方を認める一方で、本件のように固定残業代で想定された時間外労働と実際に行われた時間外労働の間の乖離が甚だしい場合には、このような取扱いになるということである。ということで結論は、Y労基署長の処分取消ということになった。
 本件は、割増賃金の請求事件ではないが、上記のような固定残業代で想定された時間外労働と実際に行われた時間外労働の間の「乖離」が甚だしい形で固定残業代制度を運用していると、思わぬ形でその結果が生じる(認識すべき)いうことである。

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