1190号 労働判例 「福山通運事件」
              (最高裁第2小法廷 令和2年2月28日 判決)
被害者に直接、損害賠償を行った被用者からその事故につき使用者責任を負う使用者に対する
逆求償の可否が争われた事例
使用者責任と逆求償の可否

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、貨物運送業を営むY(第1審被告、控訴人、被上告人)に雇われて、トラック運転により荷物の運送業務に従事していたX(第1審原告、被控訴人、上告人)が、平成22年7月、自転車を運転していた訴外Aと接触事故を起こし、Aはその後に死亡した。Xは、Aの治療費として50万円弱を支払った。平成24年10月に亡Aの遺族C(Aの二男)はY社に対して損害賠償の支払いを求めて訴訟を提起し、その翌年9月、Y社はCに和解金等1300万円余を支払い、訴訟上の和解が成立した。他方、平成24年12月、亡Aの遺族B(Aの長男)がXに対して損害賠償の支払いを求めて訴訟を提起した。平成26年2月に、50万円弱の支払いを認容する1審判決が出されたが、平成27年9月には1400万円弱の控訴審判決が出された。Xは、平成28年6月に1552万円余を弁済供託した。これと並行的に平成27年にXはYに対して、主位的にAの被害総額をYが負担するという合意が成立したと主張して、同合意に基づき予備的に使用者責任を負う使用者に対する逆求償権に基づき、XがBに支払った賠償金の支払いを求めて提訴した。 この第1審では、上記主位的な主張に係るX・Y間の合意は不成立であるとした上で、予備的主張につき使用者の負担部分の存在を肯定した。結論的には、X・Y間の負担割合は労働者25%、使用者75%とされた。そして当該割合に基づき、Xの請求を約840万円の額で認容した(Yの反訴請求は認められず)。控訴審では、逆求償は認められず、Yの負担部分の存在を否定した。ただし、信義則によりYからXへの求償は制限されるとした。Xが上告。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、原審を破棄して、XのYに対する逆求償の額の判断について、原審に差戻したが、それに至る判断は、次の通りである。まず、本判決は、使用者責任を負う使用者に対する被害者からの損害賠償請求事件に関する最高裁判決をを引用し使用者責任の趣旨(報償責任・危険責任)について触れた上で、このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係で損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部または一部について負担すべき場合がある。その場合、使用者は、損害の公平な分担という観点から被用者に対して求償することができると解すべきであるところ(茨城石炭商事事件の最高裁判例(最1小判昭和51年7月8日、民集30巻7号689頁)、上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。したがって、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に求償することができるものと解すべきである、と。なお、これには菅野裁判官・草野裁判官と三浦裁判官の補足意見がついている。後者の三浦裁判官の補足意見は、貨物自動車運送事業の許可基準や使用者責任の趣旨からして、損害の公平な分担という見地からみて、任意保険不加入のリスクを被用者に負担させることは相当でないと指摘している。
 使用者責任をベースに考えると、使用者から被用者に求償する場合と、逆に、(被害者に)損害の賠償を行った被用者から使用者に逆求償する場合とで、その額が異なるのは、損害の公平な分担という見地からみても変であり、その点からすれば、最高裁の判断は妥当と言うべきである。

BACK