1189号 労働判例 「相鉄ホールディングス事件」
              (東京高等裁判所 令和2年2月20日 判決)
長年従事してきた業務(バス運転業務等)からの変更を伴う出向元への復職命令について
権利濫用が否定された事例
出向元への復職命令の適法性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Xら(1審原告、控訴人ら58人および代表執行委員長)が、Y社(1審被告、被控訴人、相鉄ホールディングス)に対して、Y会社のバス事業がその子会社であるS1に譲渡されるに伴い、S1に在籍出向し、バス運転業務(X19は車両整備業務)に従事していたところ、Y社から、順次、出向の解除を命じられ(「本件復職命令」という)、バス運転業務等に従事できなくなったが、本件復職命令は、労働協約、個別労働契約に違反し、権利濫用であって、不当労働行為にも当たり無効である等主張し、バス運転士(X19は車両整備士)以外の業務に勤務する義務がない旨の労働契約上の地位にあることの確認、損害賠償等を求めて訴えを提起したものである(地位確認についてはXらのうち何名かは、当審で訴えを取り下げた)。1審は、Xらの請求をすべて棄却したため、Xらが控訴。Xらは、本件復職命令は企業の合理的運営に寄与するところがなく、業務上の必要性・合理性もなく、権利濫用として無効である等主張した。これに対して、Y社は、本件復職命令の背景事情として、バス事業の売り上げは減少傾向にあるにもかかわらず、バス事業の従業員の給与水準は鉄道の従業員と同じであり、バス事業の収支は成り立たない状態であった、このような状況の中で、Y社としても、バス事業を分社化して、(大手私鉄会社が行っているように)バス事業の従業員には転籍してもらい、バス事業の収支に見合った給与水準にすることを目指したものであると主張していた。
 なお、XらおよびXらの属する組合の申し立てに基づいて、労働委員会は、平成30年1月15日、Y社に対して、本件復職命令の対象者のうち、S1での勤務を希望する者について本件復職命令がなかったものとして取扱い、希望者の出向の継続について、X組合との間で誠実に協議を行い、協議を終了するまでの間、S1への出向を継続しなければならない、本件復職命令は支配介入に当たる等説示した命令を出した(この命令については、不服申立てがされ、現在、中労委に継続中)。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、原審とほぼ同様に(若干の補正をおこなっているが)、次のように判断して、Xらの控訴を棄却している。すなわち、Y社が、Xらの出向元として、Xらに対して復職を命じることができないと解すべき特段の事由があるものとはいえない、また、Y社が本件復職命令をした経緯に照らすと、Y社において、労働協約に定められた事前協議制の合意に反したものとは認められない、さらに、本件労働協約の締結のときにY社において、Xらの属する組合との合意がなければ転籍の提案をすることができない旨の合意があったことを認めるに足りる証拠はないとも判旨した。不当労働行為がなされたとの点については、本件復職命令は、無効なものとも労働協約に違反するものともいえず、業務上の必要性・合理性があったと認められ、本件復職命令によってXらの属する組合の弱体化がもたらされたとは認められず、本件復職命令は支配介入にも当たらない、と。
 以前、最高裁は、出向中に出向労働者に対して復職命令が出されたときは、特別の事情のない限り労働者はそれに従って、出向元に戻るべきであるとの判断を示していたが(古河電気工業事件、最2小判昭和60年4月5日民集39巻3号675頁)、本件も基本的にその枠組みに従って本件復職命令を適法とした判断であったといえる。

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