1188号 労働判例 「日本郵便(期間雇用社員ら・雇止め)事件」
              (最高裁第二小法廷 平成30年9月14日 判決)
一定年齢(65歳)に達した場合に契約を更新しないことを予め就業規則に定めておくことには
相応の合理性があるとされた事例
65歳更新限度条項の適法性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、Y社(旧公社民営化後の平成24年10月に発足した郵便業務を扱う株式会社)で期間の定めのある労働契約を締結し郵便関連業務に従事していたXらが、Y社による雇止めは無効であるとして労働契約上の地位確認等を求めていたものである。Y社は、平成19年10月1日に期間雇用社員規則(本件規則)を制定した。その10条1項は、Y社が必要とし、期間雇用社員が希望する場合、有期労働契約を更新することがある旨定め、同2項は、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない旨定めていた(65歳更新限度条項)。Xらは、Y社との間で、1年の期間雇用契約を繰り返し更新してきた者であるが(多い者で9回)、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときに、それ以後、雇用契約の更新を拒否されたため本件の訴えを行った。
 1審判決は、雇用契約が累次更新されることにより、雇用継続の期待の合理的理由があったとしながらも、本件上限条項の存在は、不更新条項の一種として雇用継続の期待の合理的理由を減殺させる事情となる等の理由を挙げて、本件雇止めは適法とした。これに対してXらが控訴していたが、控訴審でも、Xらの請求は理由がないとして退けられていた。これに対してXらが上告していた。
 〈判決の要旨〉
 本最高裁判決は、本件雇止めは適法とする結論において、原審と同じであるが、その理由がかなり異なっている。まず、本件雇止めの適法性について、不利益に変更された就業規則の効力を定める労働契約法10条によってではなく、同条7条にいう新たに制定された就業規則の効力の問題(労働契約法7条の合理性の問題)として捉えて判断している。そして、労働者および使用者が労働契約を締結する場合に、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、当該労働条件は、当該労働契約の内容になるのであり(労働契約法7条)、本件65歳更新限度(上限)条項について、屋外業務に従事する高齢の期間雇用社員に係る事故の可能性を考慮して、加齢による影響の有無や程度を個人ごとに検討して有期雇用契約の更新の可否を判断するのではなく、一定年齢に達した場合に契約を更新しないことを予め就業規則に定めておくことには相応の合理性がある(労契7条)とした上で、組織再編(郵政公社から民間会社への再編)の過程で慎重な就業規則策定手続きを経て盛り込まれたもので、有期雇用者にも説明していたことから雇止め時点での雇用継続の合理的期待利益は失われたと判断し、労契法19条の適用を否定して雇止めを適法と判断している。また、これは、高年者雇用安定法には抵触しないとしている。さらに、これは例えば、労働契約に突然規定されるような(今回は更新するが、次回は更新しないとかの)「不更新条項」とは区別される。
 65歳更新限度条項ついては、そこに定められる年齢が妥当なものであり、きっちり手続きを尽くし設けられ、労働者に周知しておれば、当該労働条件は当該労働契約の内容になるのであり(労働契約法7条)、このような条項も有効ということである。なお、更新限度条項であっても、ある更新時期に不意打ち的に、折り込まれた場合には、雇用継続の期待利益は直ちには失われない(市進学園事件、東京高判平27・12・3労判1134号5頁参照)。

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