1187号 労働判例 「企業組合ワーカーズ・コレクティブ轍・東村山事件」
              (東京高等裁判所 令和元年6月4日 判決)
企業組合ワーカーズ・コレクティブに属していた元メンバーが
自らを労働者であるとした上で割増賃金を請求した事例
企業組合元メンバー(組合員)の労働者性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、企業組合ワーカーズ・コレクティブ(Y組合、被控訴人、一審被告)に属していた元メンバーで、Y組合のもとで荷物配達業務に従事していたX(控訴人、一審原告)が、自らを労働者であるとした上で割増賃金を請求した事例である。Y組合は、一般貨物自動車運送事業等を目的にして中小企業協同組合法(以下では、中企協法)3条4号に基づいて設立された企業組合であり、訴外A生活クラブ生活協同組合(生活クラブ)から委託を受けて、食材等の商品を生活クラブの顧客の自宅まで配達する業務を行っていた。Xは、平成18年11月頃から、出資金5万円を払い込み、Y組合のメンバー(組合員)となった者である。Y組合は、商品を配達する経路につき、曜日ごとに複数のコースを設定・管理していた。Y組合の職員(メンバーおよびアルバイト)は、それぞれ割り当てられた配達コースをトラックで回って商品を配達し、その報酬は、配達コースごとに定められたポイントに基づいて計算された。Y組合のメンバー(組合員)は、おおむね10数名で、全員がトラックドライバーであった。Y組合の定款によれば、毎事業年度ごとに開催される通常総会の他に、毎月2回、メンバー全員が出席する運営会議が開催され、理事の選任、収支報告、剰余金の分配方法および配達コースのけていないし変更等が行われた。Xは、平成27年9月27日にY組合を退職し、同年9月28日に、労基法37条1項に基づき割増賃金を請求する訴訟を起こした。
 本件の争点は、Xが労基法にいう労働者であるか否か、Xが労働者であるとされた場合の割増賃金額、Y組合が援用した消滅時効の成否である。この点、原審は、Xの労働者性を否定したが、使用従属性の判断において、理事がメンバーに対して配達業務の依頼をしていたが、配達コースの設定等は運営会議で協議したうえで決定されており、業務従事の指示等に対して拒否する自由を有しないとして、使用従属関係を肯認する事情として積極的に評価すべきであるとはいえないとしている。報酬の労務対償性についても、具体的な報酬額は、基本的に配達に要した時間とは関係なく、特定の配達コースにかかる配送業務を行ったかどうかによって定まるのであり、報酬と一定時間の労務提供との対価関係は認められないとし、Xに使用従属性を肯定するのは困難であるとした。また、Y組合においては、理事長ら役員とXを含む他のメンバーの地位との間に大きな差はなく、メンバーのの全員が同等の立場で多数決によりY組合の運営に実質的に関与しており、その組合員は、主体的に出資し、運営し、働き、共同で事業を行っていたものといえるから、Xは組合員として事業者性が肯定され、その労働を他人の指揮監督下の労働とみるのは困難であるとして、結論としてXの労働者性を否定した。これに対して、Xが控訴していた。
 〈判決の要旨〉
 本判決も、原審を維持し、Xは労基法9条の労働者には該当しない、したがって同37条1項は適用されないとしてXの控訴を棄却した。なお、労基署から、当裁判所の判断と異なりY組合に対して残業代を支払うよう指導があったが、これは判断の基礎とされた事実および証拠の相違によるものとして退しりぞけられている。Y組合においては、各メンバーが等しく意見を表明し合い、実質的な協議を経て多数決で意思決定をしていたのであり、個々のメンバーが組合の業務執行に対して意思決定できる機会がほとんどないか、非常に制限されているような状態であるとは認められない、としている。
 企業組合ワーカーズ・コレクティブが、いかにも使用者的であり、そのメンバーがその指揮命令に服しているように見えても、企業組合が自分の選んだ労務提供形態であれば、裁判所の述べるところが妥当ということになるであろう。さまざまな形態での労務提供・業務遂行が増加している折から興味深い事例である。

BACK