1184号 労働判例 「大作商事事件」
              (東京地方裁判所 令和元年6月28日 判決)
時間外手当請求事件において、労働時間の認定にPCログ記録が根拠とされた事例
労働時間の認定の根拠

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、雑貨の輸入、工業製品の開発・販売等を行うY社(被告)に雇用され、販促物・販促動画・WEBページの製作業務等に従事していたX(原告)が、出勤簿記載の時刻を超えて時間外労働に従事していた旨主張し、平成26年7月から平成28年までの間の割増賃金等を求めて訴訟を提起した。これに対して、Yは、Xに対して、@Yに在職中、遅刻をしていたのに給与を不正に取得していたこと、AXが在職中に不正な出勤簿を作成し、不正なパソコンのログデータを作成し、不正な本訴請求に及んだ等として、損害賠償請求等の反訴を提起した。
 Yの従業員は、毎月ごとに出勤簿を作成することとされていたが、出勤簿には稼働日ごとに、始業・終業の時刻、休暇・遅刻・早退の有無、残業をした場合の残業内容・残業時間を当該従業員が記載し、捺印のうえ、上司に提出することになっており、上司が確認のうえ、これに認め印を押すものとされていた。また、Yでは、上記の出勤簿への記入以外に、各従業員において、出勤時にグループウエアのタイムカード打刻機に出勤時刻を記録するよう指導されていた。さらにYでは、業務の効率的遂行といった観点から、個々の従業員の月当たりの残業時間が30時間以内となるように指導されていた。本件請求期間に係る出勤簿のXの残業時間は、30時間を超えない月も散見されるものの、30時間とされているものが多く、これを超えて記載されているものはなかった。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労働時間の意義について、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものであり、労働時間であるか否かは使用者の指揮命令下に置かれているか否かによって客観的定まるものであると述べたうえで、ログ記録の信用性について次のように認定している。Xは、X主張の裏付けとしてパソコンから抽出したログ記録を提出しているが、残業実績が出勤簿記載の労働実績よりはるかに多かったため、念のために残していた旨供述しており、その点に不自然さはなく、抽出方法も自然なものとして肯定できる。ログ記録は、その他の資料等からも、Xの労働時間を推知する手がかりとして相応の合理的根拠がある。他に的確な反証がない限り、ログ記録を手がかりとしてXの労働時間を推知するのが相当である。Yは、残業時間が30時間以内となるように指導した事実はない等主張しているが、しかし、Xが、こうしたYの指導故に出勤簿記載の残業時間を多くとも30時間にとどめることとしたと推認するのが合理的というべきである、と。
 そして、始業時刻については、ログ記録がある日については基本的にこれを手がかりにXの労働時間を推知するのが相当である。もっとも、始業に関しては定時に間にあうように早めに出勤し、始業時刻からの労務提供の準備に及ぶ場合も少なくないから、ログ記録に所定の始業時刻より前の記録が認められる場合であっても、定時前の具体的な労務提供を認定できる場合は格別、そうでない限りは、基本的には所定の始業時刻からの勤務があったものとするのが妥当であるとしている。
 終業時刻については、ログ記録がある日については、基本的にこれを基礎にXの労働時間をを認めるのが相当であり、他方、ログ記録がない日については、出勤簿の記載時刻をこえる残業時間があったことを裏付ける的確な証拠はないから、出勤簿の記載の限度で残業時間があったものと認めるのが相当であるとしている。
 労務管理上、労働者の残業時間が問題となるようなケースで参考となる事例である。

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