1183号 労働判例 「青森三菱ふそう自動車販売事件」
              (仙台高等裁判所 令和2年1月28日 判決)
長時間の叱責のあと自殺した労働者につき、原審の判断を覆し、業務起因性を肯定した事例
労働者に対する叱責とその後の自殺と業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、自動車の仕入販売・修理等を目的とするY社(被告)に雇用され自動車整備作業等に従事していた亡A(平成6年10月18日生まれの男子)が死亡した(平成28年4月16日、天井のクレーンの先につながれた金属製のワイヤーに首をつった状態で発見され、同年5月9日死亡)ことにつき、Aの両親Xらが、Yの安全配慮義務違反等を理由に損害賠償を求めたものである。
 原審(青森地八戸支部判平成28年2月14日)では、@亡Aの死亡が自殺によるものか否か、A亡Aの自殺がYにおける長時間労働に起因するうつ病によるものか否か、BYの責任原因等をめぐって争われた。この点、原審では、@について、亡Aの死亡は自殺によるものとした上で、Aについては、亡Aが、就業時間報告書上の残業時間は、月80時間の水準を20時間以上も下回る月が多い状況等を踏まえて、全期間を通じて月80時間以上の残業に従事していたものとみることは疑問であるとして、亡Aの自殺に直結するほどの長時間労働があったと認めることはできないとして、亡Aの自殺がYにおける長時間労働に起因するうつ病によるものと認めることはできないとして、Xらの請求を棄却していた。これに対してXらが控訴したのが本件である。
 なお、原審段階では、亡Aの死亡につき労災認定は行われていなかったが、八戸労基署長は、X1およびその父Bの請求に基づき、亡Aは、平成28年1月上旬に業務に起因して適応障害を発症し、これにより自殺するに至ったとする労災認定を行った。そこでは、亡Aは、平成27年7月以降、業務上の役割・地位の変化および仕事量・質の大きな変化と長時間労働とがあいまって、平成28年1月上旬に業務に起因して適応障害を発症したところ、その後も月100時間を超える長時間労働をしたことにより出来事に対する心因性の反応が強くなっていた中、先輩従業員Cの叱責に過敏に反応し、自殺を図るにいたったものとされていた。
 〈判決の要旨〉
 控訴審で裁判所は、上記の労災認定に大きく依拠して、結論を変えたといえる。すなわち、@亡Aは、平成28年1月上旬ころ、それまでのYの八戸営業所における業務に起因して適応障害を発症したところ、その後も長時間労働が続き、出来事に対する心因性の反応が強くなっていた中、先輩従業員Cから叱責されたことに過敏に反応して自殺に至ったものである、Aこの点について、Yの八戸営業所の長であるG所長および亡Aの上司であるE課長代理において、亡Aに業務上の役割・地位の変化および仕事量・質の大きな変化があって、その心理的負荷に特別な配慮を要すべきであったところ、亡Aの過重な長時間労働の実態を知り、または知り得るべきであったのに、かえって、従業員が実労働時間を圧縮して申告しなければならない労働環境を作出するなどして、これを軽減しなかったことに要因があるとして、G所長らには亡Aの指導監督者として安全配慮義務に違反した過失があるとした。もとより、これによりYには使用者責任に基づき、Xらに対して損害賠償の義務がある、と。なお、Xらの被った損害額については、亡Aの勤務期間が1年に満たないことから、亡Aの逸失利益は、基礎収入を平成28年高卒男子、生活費控除率を50%、就労期間を67歳までの46年間として、計算している(ライプニッツ係数17・8801)。
 原審段階で認められていなかった月100時間を超える長時間労働の存否が、結論を分けたといえる。

BACK