1182号 労働判例 「長崎市立病院事件」
              (長崎地方裁判所 令和元年5月27日 判決)
市立病院で勤務していた医師について、その当直業務、看護師勉強会、救命士師勉強会、
症例研究会への参加時間は労働時間に当たるが、所定労働時間外に行われた自主的見学時間、
抄読会、学会への参加、自主的研究参加は労働時間に当たらないとされた事例
医師のさまざまな活動の労働時間性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Y市(被告)に平成26年4月1日から勤務していた心臓血管内科医Hが、同年12月18日に内因性心臓死で死亡した(死亡当時33歳)ことに関連して、その遺族等が次の3つの請求を行ったものである。@Hが生前行った時間外労働に対する割増賃金請求等、AHの内因性心臓死につき、Y病院での過重労働が原因であるとして安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求等、B相続人以外の遺族によるAと同様の損害賠償請求等、である。ここでは紙数の関係で主として@の問題について取り扱う。なお、本件Hの死亡については、地方公務員災害補償基金から公務認定がされており、遺族に葬祭補償、遺族補償年金が支払われている。
 裁判所の認定したところでは、Hが死亡した当時、Y病院での心臓血管内科医らは主任診療部長であるIの他、診療部長1名、医長3名、Hを含む若手医師3名によって構成され、その業務内容は、外来診療(各自、週2回、担当、午前8時45分から午後2時頃まで)、入院患者の診療、カテーテル治療等、所定労働時間内において来院した救急患者の対応、を行う以外に、当直業務、当番での拘束業務、看護師向けの勉強会、救命士師との合同勉強会、症例に関する院内での検討会、自主的研究を行っていたが、Hは、それ以外に、看護師専門学校での派遣講師業務、学会への参加等を行っていた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、従来の最高裁の判例(三菱重工長崎造船所事件・最1小判平成12・3・9、大星ビル管理事件・最1小判平成14・2・28)に基づいて、労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事している時間のみならず、作業と作業との間の待機時間も含まれ、実作業に従事していない仮眠時間であっても、一定の場所で待機し、必要に応じて直ちに実作業に従事することが義務づけられているときは、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に義務づけを否定できるような事情がない限り、労働時間に該当する、としている。
 そして、Hの行っていた諸業務について、@他の心臓血管内科医が行うカテーテル治療についての所定労働時間外に行われた自主的な見学時間(5時間39分)は、労働時間に該当しない、A抄読会、学会への参加は、自主的研さんの範疇に入るものであり、これらは労働時間に当たらない、B自身が担当する患者の疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間に該当するが、他方、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間には当たらない、C本来1時間認められている昼休憩も実際上10分ないし15分程度の食事時間しかとれていないので、それ以外の時間は時間外労働時間に算定する、D看護師向けの勉強会、救命士師との合同勉強会、症例に関する院内での検討会は、若手医師であるHにとっては、その講義担当や発表の担当を断ることは難しく、通常業務との関連性が認められ、労働時間に該当する、E当直業務も、仮眠時間も含めて、労働から離れることが保障されていたとはいえず労働時間に該当する、と認定している。
 医師、とくに本件で問題になっている心臓血管内科医が大変忙しいことはよく理解できるところであるが、本件では、当該医師の行っていた各行為について細かく労働時間性の当否を判断しているのが特徴である。医師が行う行為について、Yが実際にどのような指導・監督が行えるかは、難しい問題を含むところである。医師本人の自覚も強く求められることは言うまでもない。

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