1181号 労働判例 「グローバルコミニュケーションズ事件」
              (東京地方裁判所 令和元年9月26日 判決)
原告の疾病につき業務起因性が否定され、労基法19条の類推適用も認められず、
休職期間満了による自然退職が有効とされた事例
休職期間満了による自然退職

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、コンピュータソフトの開発・販売等を行う会社(Y社、被告)にシステムエンジニアとして雇用されていた者(X、原告)が、派遣先会社にシステムエンジニアとして派遣され就労していたが、うつ状態との診断を受け出勤しなくなり、有給休暇をすべて消化したあと6ヵ月認められていた休職期間(就業規則の規定によれば勤続3年3年以上で6ヵ月)を満了したことにより自然退職となったあとで、当該うつ状態になったのは業務に起因するものであり、そのような者の解雇は労基法19条に違反するとして地位確認、賃金の支払い等を求めたものである。
 Xの主張によれば、上記派遣会社での業務以外に、派遣されてきた後輩についても指導・監督を行うようにとの特別業務命令を受けたことから業務が過重になり発症したものである、本件特別業務による負荷は認定基準にいう「達成困難なノルマが課せられた」こと、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」ことに当たり、心理的負荷の強度は「強」に該当する等主張していた。なお、Xの上記疾病についての労災申請は労基署長により不支給決定がなされ、その後の審査請求、再審査請求も棄却されている。また、Yの作成にかかる勤務表によれば、Xの時間が労働時間数は、多いときで55時間15分、少ないときでは13時間45分であった。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように述べてXの請求を棄却している。労基法19条の解雇制限の趣旨は、労働者が療養のために安心して療養のために休業できるように配慮したところにある点からすれば、同項の業務起因性の意義は、労災保険法における業務起因性の意義と同じものであると解される、また当局が出している「認定基準」はその内容に照らすと相応の合理性を有するものというべきであり、本件においても当事者双方が認定基準を参照しつつ主張立証を行っている状況を考慮すると、本件でも認定基準を参考としながら本件の具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当である、と。
 本件で原告側がとくに問題にしている、特別業務命令については、裁判所は次のように認定している。すなわち、Yは、Xに対して新たに派遣されたXの後輩(判例文中ではZ4)の業務処理につき指導したりこれを補佐したりするように指示したという限度の事実は認められるが、(それ以上に)YがXに対して、Xの当該後輩(Z4)に対する指導監督の成否や、Z4の業務の成否次第によってはZ4を解雇するとか、その解雇の責任をXに負担させるといった趣旨の指示をした事実は認められないし、YのXに対する指示が社会通念に照らして特別視すべきもの、または不当なものであったとはいえない。そして、Xのうつ状態が認定基準の対象とされる疾病であるとしても、その業務起因性は認められないとしている。
 裁判所が認定している過重な時間外労働がなかった等の事実からすれば、本件のX疾病について業務起因性は認められない、したがって労基法19条も適用されないという結論は妥当なものであると思われる。

BACK