1180号 「ヤマダコーポレーション事件」
       (東京地方裁判所 令和元年9月18日 判決)
被告入社以前に3社に勤務しシステムエンジニアとして27年の経験を有する者が
中途採用され試用期間満了により解雇された事例
試用期間満了と解雇
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、圧縮空気を動力源とするポンプを開発・製造する会社である被告Yに入社する以前に3社に勤務し、システムエンジニアとして27年の経験を有する者X(原告)がその経験を買われ中途採用されたが、試用期間(3ヵ月)満了により解雇され、その効力を争った事例である。
 Xは、システムエンジニアとしての経験を買われ、Y社に経営企画室係長として採用されたが、その業務はITインフラ運用、保守等社内情報システムの管理であった。試用期間中、Xは、部下に対する脅迫的な言動があった、取引先との発注データ送信の不具合が生じた際の不適切な対応により取引先とのトラブルを生じさせた、データの誤消去等の業務上のミスおよびその際の対応により他部署との軋轢を生じさせた等の行為があったとして、Yは、Xを就業規則上のパワーハラスメント防止規程違反、勤務態度不良、勤務能力不足等を理由に(本採用せず)、試用期間満了で解雇した。本件は、Xが上記解雇は無効であるとしてその効力等を争ったものである。争点は、解雇の有効性、および本件解雇が不法行為ないし債務不履行に当たるか否かである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、まず、試用期間の性質および試用期間中の解約権留保の趣旨について、最高裁の判例(いわゆる三菱樹脂事件、最大判昭和48・12・12の判旨)を引用し、次のように判示する。試用期間中の解約権留保は、採用決定の当初には当該労働者の資質・性格、能力などの適格性に関連する事項について資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終決定を留保する趣旨でされるものであり、当該留保解約権の行使も、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合にのみ許されるものである。
 そして、〈事件の概要〉で述べたようなXが解雇された理由について検討し、XにはYが主張するような協調性のなさ、上司や部下に対する勤務態度の問題が存在し、管理職としての適格性に疑問を生じさせる事情として評価できるとしている。なお、Yは、試用期間中である時期に指導を継続せず、解雇を通知していると主張しているが、この点について、試用期間の満了までの残り2週間の指導によっても、Xの勤務態度等について容易に改善が見込めないものであると判断したもので、試用期間の満了までXを指導しなかったとしても、相当性を欠くとはいえないとしている。また、争点の2については、解雇が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できるのであるから、それが不法行為を構成することはないし、本件での全証拠に照らしても、Yおよびその関係者にモラルハラスメント行為や安全配慮義務違反を基礎付ける事実等は認められないとして、この点もXの請求を退けた。
 管理職として採用する労働者の場合、本採用前に、3ヵ月程度の試用期間を付して本採用前の最後のチエックを行うというのがわが国の雇用慣行と言っていいが、新規学卒採用の場合とは異なり中途採用者の場合は、この点のチエックはある意味で厳格に行われるということである。採用実務を行う者にとって、参考になる事例である。

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