1179号 「東芝総合人材開発事件」
       (東京高等裁判所 令和元年10月2日 判決)
度重なる業務指示に対する不遵守・懲戒処分にもかかわらず、
業務命令に従わなかったことを理由としてなされた解雇につき、
原審と同じく控訴審でも有効とされた事例
業務命令と解雇
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、企業内教育研修の企画・立案・コンサルティング等を目的とするY社(被告・被控訴人)において、東芝および東芝グループ各社に技能職として入社する新規高卒者等の訓練生の教育訓練を行うA研修部のBスクールの担当に配属されていたX(女性、原告・控訴人)が、会社内部における企画・運営についての自己の不満をぶちまけるかのようなメールを派遣元関係者に送付したことを契機に、従前の担当を停止され、難易度が低い単純作業に属するマーシャリング作業(実習に用いる部品類を揃えて袋詰めする作業、部品仕訳作業)を指示されたにもかかわらず(本件業務指示)、その業務指示に従わなかったこと等を理由に、譴責処分、さらには出勤停止処分を課せられたが、その後も本件業務指示に従わなかったことを理由に解雇され、当該解雇を無効として地位確認、賃金支払い等を求めていたものである。Bスクールでは、半期に一度派遣元に対する報告会を実施していたが、Xは、平成26年度前期派遣元報告会議事録についての連絡と題する上記メールは次のような内容の物であった。@前期報告会について、開催前は担当するよに言われていた野に、180度変わり、東邦が担当でないのに余計なことをしたと言われたから、議事録を含め、今後一切担当しない、A学科講師による訓練生の職場環境見学も、理由・説明・報告もなく取り止めになった、B派遣元窓口への報告会や評価制度についても、現在の訓練校ではグループミーティングもなく、学科講師の振返り会、派遣元に対する報告会ともに責任が持てない、C振返りでも各実技指導員からの書面での報告がないことをお詫びする、D訓練生の成績を報告するだけで精一杯の状況であるとの記載があった。 Xの上記訴えに対して、原審(横浜地判平成31・3・19)は、次のように判示してXの主張を認めなかった。@就業規則に基づき、社員は、業務指示が懲罰目的、いじめ、嫌がらせ目的であるなど業務命令権が濫用に当たり無効である場合は別にして、本件業務指示に従う義務がある。またXが送付したメールの内容は、Bスクールの信用を揺るがす重大な行為であったのであり、YがXを従前の業務に戻すことができないと判断したこともやむを得ない。マーシャリング作業は業務上の必要性が認められる業務であって、一般的に作業員が精神的・肉身体的苦痛を感じるものではなく、本件作業指示は社会的に相当なものである。AXが、約30年、東芝およびY懲戒処分歴なく勤務を継続してきたこと、Xが当時51歳で再就職が困難な年齢であることを考慮しても、Xが懲戒処分を2回受けても有効な本件業務指示に従に従わないという強固な姿勢を示しており、企業秩序を著しく乱していることからすれば、本件解雇は社会通念上相当でないとの認められない。
 〈判決の要旨〉
 高裁も、原審の判断を相当として、補足的な判断を加えたのみで、Xの控訴を退けている。次のように述べる。@問題となった本件メールは、Xの意見・不満を外部にぶちまけるかのような内容のものであり、Yが直ちにXの従前の業務を停止し、反省文の提出を指示したことはやむを得ない措置であった。A本件をパワーハラスメントに該当するというのは無理がある。A本件業務指示がXを退職に追い込む目的で発せらことを認めるに足りる証拠もない。B出勤停止処分の約3ヵ月半後に本件解雇に至ったという流れはX以外の誰にも止めようがなかったものというほかない。
 労働者には適法な業務指示に従う義務があり、これに反抗した場合には解雇もやむを得ないといことである。メールの恐さを感じさせる事件でもある。

BACK