1178号 労働判例 「ジャパンビジネスラボ事件」
              (東京高等裁判所 令和元年11月28日 判決)
語学スク−ルで正社員契約を締結していた従業員が育児休業取得後に
有期労働契約に変更されたことの有効性が問題となった事例
育児復帰時の契約社員契約の効力

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、語学スク−ルY(1審被告・控訴人)で労働契約(正社員契約)を締結していた従業員X(1審原告・被控訴人)が、育児休業取得後に有期労働契約に変更され、その効力等を争った事例である。
 Yは、Xが育児休業取得後に職場に復帰するに当たり、Xとの間で期間1年の契約社員契約(週3日勤務)を締結したが、1年の期間満了によって終了する旨の通知を行い、契約の更新はされなかった(平成27年9月1日、雇止め)。これに対して、Xが、この措置は、均等法9条3項、育児・介護休業法10条の不利益取り扱いに当たるとして、労働契約上の地位確認、損害賠償等を求めたのが本件である。なお、女性従業員が育児休業終了後、上記のような契約社員契約(有期労働契約)を締結したことには保育所が見つからないという事情があり、Yも、育児休業明けの従業員に対して、子の養育状況等の就業環境に応じて、多様な雇用形態を設定し、「正社員(週5日勤務)」、「正社員(週5日時短勤務)」、「契約社員(週4日または3日勤務)」の中から選択できるように就業規則を見直し、契約社員制度を導入したが、この制度改正については、育児休業中の女性従業員にも説明がなされており、同人は、育児休業終了までの約6か月間、子を預ける保育園の確保や家族にサポ−トを相談するなど、復職の際の自己に適合する雇用形態を十分に検討する機会が与えられていたが、Xは、育児休業終了の6日前になって、正社員ではなく、週3日4時間勤務の契約社員として復帰したい旨を伝え、終了前日に、契約書の記載内容、契約社員としての働き方や賃金の算定方法等について説明を受け、これを確認して、本件契約を締結したものであるとの認定がなされている。
 この点、原審は、Xの契約社員としての労働契約上の地位確認を認めるとともに、YのXに対する一連の行為について110万円(弁護士費用を含む)の損害賠償を認容したが、正社員としての労働契約上の地位確認請求は棄却した。これに対して、X・Y双方が控訴。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示する。本件Yでの正社員と契約社員とでは、契約期間の有無、勤務日数、所定労働時間、賃金の構成(固定残業代を含むか否か、クラス担当業務とその他の業務に係る賃金が内訳として区別されているか否か)のいずれもが相違する上、Yにおける正社員と契約社員とでは、所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり、また業務内容も 相当の違いがあるから、単に一時的に労働条件の一部を変更するものとはいえない。そうすると、Xは、雇用形態として選択の対象とされていたものから正社員ではなく契約社員を選択し、Yとの間で本件雇用契約書を取り交わし、契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したものであるから、これにより、本件正社員契約を解約したとして、これに反するXの主張を斥けている。そして本件で認定された事情から、この合意がXの自由な意思に基づいてなされたとしている(最1小判平成26年10月23日参照)。
 育児休業後・復帰時の契約社員契約の効力、更新の有無・その適法性、不法行為の成否等、さまざまな論点が争われたが、原審とは異なり、控訴審では、X(1審原告)の主張がほぼ明確に否定され、育児休業取得後にされた有期労働契約への変更、その後の雇止めがいずれも有効と判断されている。その背景には使用者が、労働者の育児休業、その後の復帰時について労働者側の事情に応じた具体的な選択肢を用意していたという状況があったとと思われる。興味深い判決である。

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