1177号 「コメット歯科クリニック事件」
       (岐阜地方裁判所 平成30年1月26日 判決)
歯科技工師であった従業員が妊娠・出産(結果的に3人出産)の頃から使用者と紛争・休職に至り、
休職期間満了で退職扱いとなったことにつき、疾病が業務上とされ、退職扱いが無効とされた事例
休職の原因となった疾病の業務起因性
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、歯科技工師であった従業員(C・原告)が結婚し、その後の妊娠・出産に伴い、産前産後休暇・育児休暇をとり休んだ後の復職に絡んで使用者と紛争に至り、うつ症状が出て休職したが、休職期間満了で退職扱いとなったことにつき、当該疾病が業務上のものか否かで争われた事例である。結果的には、当該疾病が業務上のものとされ、Xの退職扱いは労基法19条により無効とされた(労働契約上の地位確認が認められた)が、女性従業員の妊娠・出産に伴う紛争として最近少なくないケ−スである。
 Cは、歯科技工師として被告Dに雇用されていたが、Cの産前産後休暇・育児休暇の取得・復職に関連する嫌がらせ等の行為でうつ病を発症して休職するに至たり、その結果休職期間満了で退職扱いとなったとして、@労働契約上の地位確認を求めるとともに、A被告Dによる懲戒処分の違法性を争い、他にも、BCが受けたとする嫌がらせについての損害賠償等を求めた。本件での争点は多数あるが、Cの休職に至った疾病に業務起因性が認められるか否かを中心にみていくことにする。
 なお、Cは、次の事案1および事案2を懲戒事由として使用者から懲戒処分を受けている。事案1は、@Cが、労働局雇用均等室に対して、本件クリニックの従業員である他の妊婦を例に挙げて本件クリニックが妊婦に対して不当に時短を命じた旨の虚偽の報告をして同妊婦と本件クリニックとの間の信頼関係を損なったこと、ACと被告Dが@に関する事実関係を確認する際に同妊婦が同席していたところ、Cが声を荒げて反抗的な態度をし、上長の名誉を傷つける等のことをしたというものであり、事案2は、Cが平成27年1月3日に育児休業が終了しているにもかかわらず、規定されていた届出、本件クリニックへの相談、同意・了解を得ずに、出勤日を一方的に定めて同月13日に出勤したことである(4日から9日までの6日間について無断欠勤をした)というものである。裁判所は、事案1について、Cが服務規定に違反していたということはできない、事案2については、Cの本件クリニックへの復職日は、被告らとの事前調整を経て同日(13日)と決定していたとして、上記の勤務しなかったことを無断欠勤に当たるとはいえないとして、減給という比較的重い本件懲戒処分に見合うような悪質性は認められないとしている。
 〈判決の要旨〉
 被告は、訓示の内容や訓示がなされた時期に鑑みて、Cに対して皮肉な当て付けがましいことを述べており、Cは、被告らの行為によって精神的負荷を受けており、かつ、Cがもともと精神疾患を発症していなかった上、本件精神疾患を発症させるようなその余の事情が認められないことからすれば、これらの精神的負荷の積み重ねによって、Cが本件精神疾患を発症したものと優に推認することができるとして、本件精神疾患の発症には業務起因性が認められると結論づけた。
 女性の妊娠・出産、育児に関連しては、使用者からの嫌がらせ等不利益な取扱いを禁止するというのが育児介護休業法の趣旨である。その点からすれば本件での使用者の取った行動は論外というべきであろう。他方、女性の側で出産、育児に伴いもさまざまな個人的事情・苦労が登場するのが通常である。育児、それも続けて2人の乳幼児の育児ということであれば、なおさらである。この点について本判決はほとんど触れずに本件での精神疾患発症についての業務起因性ありとの判断をしているが、やや気になる点である。

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