1173号 労働判例 「鳥伸事件」
              (大阪高等裁判所 平成29年3月3日 判決)
デパ−トの売場にテナントの一つとして入っている鶏肉店が労基法にいう事業場と認められ、
そこで就労していた労働者の定額残業代の有効性が争われた事例
事業の判断基準と定額残業代の有効性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、京都のデパ−トの売場にテナントの一つとして入っていた鶏肉店が労基法にいう事業場と認められ、そこで就労していた労働者X(1審原告、鶏肉の加工・販売を行う者)の定額残業代の有効性が争われた事例である(1審被告Yは、鶏肉の加工・販売および飲食店の経営を行う有限会社)。定額残業代の有効性の判断に先立って、デパ−トの売場にテナントの一つとして入っていた鶏肉店が労基法にいう独立の事業場と認められるか否かが判断されている点が興味深い。この点は、そこで就労している労働者の数・業種にもよるが、労基法40条1項、労基則25条の2第1項の適用により週所定労働時間が40時間か44時間かが決まることになる。
 Xは、求人誌で給与25万というYの募集に応募して採用されたが、3か月の試用期間の後、正式採用され、京都のデパ−トの売場にテナントの一つとして入っていた店舗・鶏肉店で勤務していた。雇用契約書では、月給25万円(残業代含む)となっていたが、内訳は基本給18万8千円、残業手当6万2千円とされていた。入社後1年半ほどでXは、退職し、未払いの割増賃金を請求した(なお退職の翌年にYは、未払いの割増賃金を11万6千円余を支払っている)。
 本件の争点は、@時間外労働時間数、A割増賃金の算定基礎、B時間外割増賃金の算定方法・額、C付加金の適否、である。
 〈判決の要旨〉
 控訴審でも、1審判決を若干補正しているが、基本的にはそれとほぼ同じである。本判決も1審判決が認容した限度でXの請求を認容し、控訴および付帯控訴を棄却している。 まず、本件事業性については、1審と同様に、独立した事業所であるか否かは、労働の態様の一体性の観点から、同一の場所にあるものは原則として一個の事業所として、場所的に分散しているものは原則として別個の事業所と解するとして、本件店舗の場合は他の店舗から場所的に独立しているから原則として別個の事業所と認められるべきであるとしている。そして本件店舗には店長が置かれ、本件店舗の営業方針や仕入・発注等の日常業務はすべてB店長がその裁量により決めており、B店長は本件店舗の売り上げ管理も行っているから営業面での独立性も認められるとしている。本件店舗は「物品の販売」の事業に該当し、本件店舗の従業員数は8名であることから、労基法40条1項、労基則25条の2第1項の適用により週所定労働時間は44時間ということになる。たしかにXが主張するように、B店長が従業員代表、賃金台帳を独立して調整していないことから独立性が完全ではない面があるが、労働の態様の一体性は否定することはできないとして、上記のように判断している。 
 問題は、本件での定額残業代の有効性であるが、裁判所は、次のよに述べる。労働契約締結時に 給与総額のうちに何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされておれば、時間外等割増賃金の支給を受けずに労働する時間が明確になっており、所定労働時間に見合う金額と時間外等労働に見合う金額も間接的に算定することができるが、賃金規程の定めにおける時間外手当の算式にXの正式採用後の給与を当てはめてみると、6万2千円〓18万8千円÷191・19時間×1・25×時間外労働時間数であり、時間外労働時間数は50・44時間となる。しかし、雇用契約書には月給25万円(残業含む)とされているのみで、その内訳は明器にされていないから、給与総額のうち何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされていたとは認められないとした。なお、付加金については、現実の時間外労働時間と想定労働時間と格段に相違しているとまでいえないこと、現実の時間外労働時間数の程度等を考え併せて2分1に限定している。
 規模のごく小さな「物品の販売」の事業についても、定額残業代についてはきわめて厳格な判断を示した事例といえる。

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