1172号 労働判例 「学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件」
              (大阪高裁 平成31年2月15日 判決)
アルバイト職員と正職員の労働条件の相違が一部につき、労働契約法20条に違反するとされた事例
アルバイト職員と正職員の労働条件の格差の違法性

 解 説
 〈事実の概要〉
 平成25年1月29日、Y1大学との間で期間の定めのある労働契約(期間1年)を締結してY1大学で教室事務員として勤務していたX(原告)は、以後アルバイト職員として雇用契約を更新しながら平成28年3月31日まで在籍していた。Xは、その後適応障害を発症して平成28年3月末で退職した。本件は、X(原告)が、期間の定めのない労働契約を大学と締結している労働者との間で、基本給、賞与、年末年始および創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、夏期特別有給休暇、業務外の疾病(「私傷病」)による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置に相違があるのは労働契約法(労契法)20条に違反すると主張して、Y2大学に不法行為に基づき損害賠償を求めたものである。1審の訴えの内容は本審と若干異なるが、1審がXの訴えをすべて棄却したため(賞与について、長期雇用が想定される正職員には雇用確保等のインセンティブがあるのに対して、アルバイト職員には正職員と同様のインセンティブが想定できない上、雇用期間が一定でないことから賞与算定期間の算定が困難であるという事情があり、これを労契法20条に違反する不合理な労働条件とはいえない等とした)、Xが控訴していた。なお、Y2大学は、平成28年4月に学校法人大阪医科大学(Y1)と大阪薬科大学が合併して設立された大学である。
 〈判決の要旨〉
 控訴審でも、賃金(基本給)については、1審と同様に、Xの主張を退けたが、注目されたのは、「賞与」についての判示である(なお不合理性の判断枠組みについては、省略したが、1審後に出された長沢運輸事件・最2小判平成30・6・1の判旨を踏まえている)。@賞与について次のように述べる。賞与には、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨が含まれている(なお、必ずしも長期雇用を前提としない契約職員にも正社員の約80%の賞与が支給されている)が、賞与は「就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する」として、Y2大学に在籍し就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対して、額の多寡はあるにせよ、まったく支給しないとすることには合理的な理由を見いだすことは困難であり、不合理であるというしかない。そしてXに対して、正職員全体のうち、平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し、その者の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違であるとした。Aまた、夏期特別有給休暇について、Xのように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対して、正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことも不合理な相違であるとした。Bさらに、フルタイムで勤務し契約期間を更新しているアルバイト職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと、休職給の支給を一切行わないことも不合理であるとされた。休職給の額については、アルバイト職員の契約期間は更新があり得るとしてもその期間は1年であるのが原則であり長期雇用が前提されているわけではないことを勘案すると、私傷病による賃金支給につき1ヵ月分、休職給の支給につき2ヵ月分(合計3ヵ月、雇用期間1年の4分の1)を下回る支給しかしないときは、正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきであるとされた。なお、附属病院の医療費補助措置については、Y2との一定の関係を有する者に恩恵的に施されるもので、労働契約の一部として何らかの対価として支出されるものではなく、労契法20条に違反する不合理な労働条件とはいえないとした。そして結論としてY2に対して、合計で109万円余(弁護士費用10万円を含む)の支払いを命じた。
 結局、控訴審では、賞与、夏期特別休暇、私傷病欠勤補償について、一部であれ、不合理な相違と認定されたが、期間雇用者とはいえ通常は更新され長期化する場合が少なくないことを考慮すると非正規雇用の労務管理において示唆的な判例であると思われる。

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