1171号 労働判例 「佐賀県立高校事件」
              (佐賀地裁 平成31年4月26日 判決)
自律神経失調症、うつ病等の診断を受けて病気休職、その後、通院加療を受けていた高校教師Xが
「X1だより」の転出者欄に「病気休暇」と掲載されたことについて損害賠償を求めた事例
「病気休暇」の公表とプライバシ−保護

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、佐賀県の県立高等学校(農業高校)の教員であるX(原告)が、@長距離・長時間の通勤および過重な職務により、平成18年12月20日、不眠症および自律神経失調症(「疾病1」という)ならびに不安神経症(疾病1と併せて「疾病1等」という)、平成19年4月11日、うつ状態(「疾病2」)となり、続いて平成22年7月4日に、うつ状態(「疾病3」)となり、平成23年1月31日、うつ病となり(「疾病4」)、同年4月18日、うつ病および適応障害となったとして、Y(被告佐賀県)を相手として安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めるとともに(Xは、平成23年2月1日から5月1まで約3ヵ月、病気休暇を取得するとともに、平成23年5月2日から平成25年1月27日まで病気休職となっていた)、A「X1だより」の転出者欄に「病気休暇」と掲載されたことについてプライバシ−権侵害による損害賠償を求めたものである。X1高校では「X1だより」を作成し、生徒に配布していたが、平成23年4月号の「X1だより」の転出者欄に「病気休暇」と記載した。本件「X1だより」は同高のウェブサイトに掲載された。平成25年1月22日頃に削除された。
 本件の主な争点は、@安全配慮義務違反の当否、A国家賠償法1条1項に基づく請求(「病気休暇」の公表とプライバシ−権の侵害)の当否、の2点である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、@について次のように述べている。すなわち、Xの受診状況、勤務状況、通勤状況(X3高校勤務時、X2高校勤務時、X1高校勤務時のそれぞれ)に基づいて、発病と職務との間の相当因果関係について、認定基準(厚生労働省からの依頼により医学・法学の専門家で構成された検討会が検討した結果を取り纏めた報告書を踏まえたものであり、その内容は最新の医学的知見に基づいたもので合理性を有するとされ、発病と職務との間の相当因果関係の判断においても参考となるとされている)の考え方に従って判断されている。これによれば、「疾病1」の発病前おおむね6か月の間に於いて職務が過重であったとは認められず、職務による強い心理的負担があったとは認められないと。「疾病2」「疾病3」「疾病4」についても、同様に発病と職務との間の相当因果関係は存在しないとされている。なお、Xが主張する通勤の負担については、「転任先における職務に従事するため、どこに居住し、どのような手段で通勤するかは、個人のライフスタイルの問題であって、職員が自ら自由に決すべき事柄であり、地方公共団体において介入することはできない」、「地方公共団体において(職員の通勤の負担を)解消・軽減する義務を負うと解することはできない」と判断している。
 問題はAであるが、この点については、「個人の健康状態、心身の状況、病歴等に関する情報は、通常は他人に知られたくない情報」であり、これを本人の同意なくみだりに公表することは許されないとして、精神的苦痛の慰謝料として10万円を認定している(なお、個人情報保護法が平成15年に制定されている)。

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