1169号 労働判例 「学校法人文際学園事件」
              (東京地方裁判所 平成30年11月2日 判決)
日本外国語専門学校で英語の授業を担当していた外国人講師が
労基法39条1項の年休付与の判断に係る「継続勤務」の要件を満たすか否かが争われた事例
前期・後期と分かれ契約期間が存在しない期間がある講師契約の更新と「継続勤務」

 解 説
 〈事実の概要〉

 労基法39条1項では、使用者は、6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に継続しまたは分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。1年6か月間以上継続勤務した労働者には、その後の継続勤務1年について1労働日を加算し、3年6か月以降は継続勤務期間が1年増加するごとに2日ずつ加算され、最高20日までの有給休暇が与えられる(同2項)。本件で問題になったのが本条の「継続勤務」の要件である。
 本件は、日本の外国語専門学校を設置・運営する学校法人(被告、Y)で英語の授業を担当していた外国人講師ら(原告ら、X1・X2)が、授業期間が前期・後期とに分かれているため、契約期間が存在しない講師契約を更新・継続してきたが、労基法39条1項の年休付与の判断に係る「継続勤務」を満たすとして年休を取ったところ、年休取得日の賃金が払われなかったとしてその日の賃金を請求した事例である(日本語の就業規則につき、Yが筆写しか認めない(コピ−等を認めなかった)ことがパワハラも当たるか否かも争われているが、字数の関係で省略する)。
 X1はアメリカ出身、X2はイギリスの出身であり、それぞれ英語を母語とする者である。Yは、X1につき平成18年から主にイングリシュ・コミュニケ−ション・スキルズ(以下、「ECS」という)を中心に英語の授業を担当してきた。X2についても同様で、平成23年から、学期ごとに有期の講師契約を締結してきた(前期が4月中旬から9月中旬まで、後期が10月初旬から2月中旬まで)。X1、X2が締結した講師契約の契約期間は前期が約5か月、後期が約4か月半に及び、前期についていわゆる夏休みがあることを考慮してもその契約期間は約4か月に及び、契約存続期間は1年の約3分の2以上に至つている。またX1、X2は、講師契約に基づき、週の過半を講義担当日として少なくとも1時限(1コマ)以上講義を行っている。また講義時間以外にも講師契約に基づいて講義に関連・付随する業務を行っている。さらにYは、講師契約存続期間中に、次学期の講師契約を締結するか否かを判断した上で、Yとして次学期の講師契約を締結すると判断した者に対して、アベイラビリティ・シ−トを交付しており、アベイラビリティ・シ−トの交付を受けた者のうちYの都合で次期の講師契約が締結されなかった者はいなかった。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、上記のような事実に基づいて、本件では、講師契約存続中に、事実上、次学期の講師契約の締結に向けた素地が整備されているものと評価し、現にX1、X2は、最初の講師契約以降、途切れることなく毎学期講師契約を締結してきている。また、講師契約以降、主としてECSという英語の講義を担当しており、同種の業務を継続的に担当しているものと評価できる。Yが指摘するとおり、前期と後期との間には約半月、後期と次年度の前期との間には約2か月の期間があるものの、これは日本外国語専門学校が専門学校であることから、各学期間に授業が行われない期間が存在し、講師契約の性質上、この間も契約関係を存続させておく実益が乏しいことによるものであり、上記アベイラビリティ・シ−トの運用を併せ考慮すると、本件において、これらの期間が存在することを重視することは相当ではない。以上のように判示して、本件では、「継続勤務」の要件は満たされていると結論づけた。
 一定期間、継続的に勤務した者に一定の有給の休暇を認めるという労基法の年次有給休暇制度の趣旨からして、妥当な判断であると思われる。もっとも、さまざまな形態の雇用契約に基づく勤務が存在することを考えると、労基法39条1項の法解釈だけでは足りず法政策的に考慮すべき問題でもある。

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