1162号 労働判例 「メトロコマース事件」 (地裁判決は1118号参照)
              (東京高等裁判所 平成31年2月20日 判決)
駅構内の売店で販売業務に従事していた有期雇用契約社員と無期雇用契約を締結して
同様の業務に従事していた正社員との労働条件についての格差の違法性
販売業務に従事する有期雇用契約社員と正社員との間の労働条件格差と労働契約法20条
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件の地裁判決は、M社事件として本誌1118号(平成30年2月5日号)に紹介したが、本判決はその高裁判決である。いくつかの点で顕著な違い、判断の相違がみられるので、改めて紹介したい。本件の基本的な事実関係については、上記の掲載誌を参照していただきたいが、主なところだけ述べる。本判決も、原判決の「事案の概要」を引用しているが、それによれば、Y社(原審被告)の社員区分は、@正社員、A契約社員A、B契約社員Bがおり、正社員の場合、65歳定年の期間の定めのない労働契約であり、各種の部署に勤務するが、「d事業所」が管轄する各売店においては販売業務に従事する正社員は18名いた。契約社員Aは主に1年の有期の期間の定めのある契約を締結する者であり、就業規則上は3年以内となっているが、原則として更新され、定年は65歳である。これに対して契約社員Bは、1年以内の期間を定めてYと労働契約を締結した者であり、d事業所が管轄する各売店においては販売業務に従事する契約社員Bは78名であった。
 〈判決の要旨〉
 原審との顕著な相違が見られるところをみていく。まず、契約社員と比較されるのが、販売業務に従事する(少数の)正社員なのか、多数を占める正社員一般なのかが問題となるが、原審では後者とされたのに対して、高裁では、労働契約法20条が比較対象とする無期契約労働者を具体的にどの範囲の者とするかについては、職務の範囲、その変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められると主張する無期契約労働者(原告側)において特定して主張すべきものであるとし、裁判所はその主張に沿って当該労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断すれば足りるとして、第1審原告らが比較対象すべき無期契約労働者を正社員全体ではなく、売店業務に従事する正社員(互助会から転籍した者および契約社員Aから登用された者)に限定しているから、当裁判所も、これに沿って両者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断するとしている。なお、比較対象すべき無期契約労働者を正社員全体とした場合、契約社員B派売店業務のみに従事しているため、それに限られない業務に従事している正社員とは職務の内容が大幅に異なることから、それだけで不合理性の判断が極めて困難になるとも、述べられている。しかし、このように判断していいのかどうか、疑問が残るところである。
 さて、本判決でも、本給および賞与については、両者の格差について合理性があり不合理とはいえないとされたが、他方、退職金の格差ついては、不合理と認めている(退職金の有無の相違を不合理とした初めての判決でもある)。もっとも、本判決でも一般論として、長期雇用を前提とした無期契約労働者に有為な人材の確保・定着を図る目的で無期契約労働者に退職金制度を設けるという設計をすること自体、人事施策上、一概に不合理であるとはいえないとしたが、有期契約労働者も定年が65歳と定められ、実態として長期間勤続している一審原告らについては、少なくとも長年の勤務に対する功労報奨の性格を有する部分に係る退職金すら一切に支給しないのは不合理といわざるを得ないとし、退職金が賃金の後払い的性格、功労報奨的な性格等の複合的な性格を有することを考慮して、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1に相当する部分を支払わないのは不合理であるとしている。また、住宅手当についても、本件住宅手当が、従業員が実際に住宅費を負担しているかどうかを問わず支給されること、扶養家族の有無によって異なる額が支給されること等から生活費を補助する趣旨のものであるとして、契約社員Bに住宅手当を支給しないのは不合理であるとした。
 上記のような不合理性の判断は誰もが納得できるものか否か、疑問の余地が残る。

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