1161号 労働判例 「日産自動車事件」
              (横浜地方裁判所 平成31年3月26日 判決)
日本における大企業の課長職であった者が、管理監督者でないとされた事例
管理監督者性の判断基準
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、被告Y(日産自動車)の課長職を務めていたCの妻である原告Xが、Cの死亡によりその賃金請求権の3分の2を相続したとして、Yに対して、平成26年9月から平成28年3月までの時間外労働分につき、CはYで管理監督者(労基法41条2号)として取り扱われていたが管理監督者ではなかったとして、割増賃金、労基法114条の付加金等を請求した事案である。Cは、Yと期間の定めのない労働契約を締結し稼働していたが、平成28年3月、本社内で執務中に倒れ、脳幹出血で死亡した(死亡時、42歳)。Cの相続人は、妻であるXとCの両親であった。
 Cは、Yでは、上記で触れたように管理監督者(労基法41条2号)として取り扱われ、割増賃金は支払われていなかったが、この点につき、Yは次のように主張していた。@Cの役割等級は、N2職であったが、N2職は課長職で、2万2000名を超えるYの従業員のうち1700名前後(約7%)であり、部長職のN1職を含めても従業員のうち上位10%に位置する管理監督者層である、Cはマーケティングマネージャーとしてe−NV200の拡販活動を担当し、経営陣に対し経営上の重要事項に関する企画立案を行う業務であった、ACは、出退勤時刻について自己の裁量により決定しており、遅刻早退について賃金の減額を受けなかった、Bダットサン・コーポレートプラン部でのCの年収(平成27年1月から12月まで)は、通勤費を除くと1234万円余であり、部下の賃金より240万円も高かった。これに対して、Xの側では、Cには所定労働時間が定められており、毎日の始業・終業時間については上司の承認を得ていた、Yからの文書には遅刻・早退があった場合には清算されると記載されており、Cには労働時間についての裁量はなかった、待遇も、Yが一部上場企業であり世界有数の自動車メーカーであるから、課長職級として報酬が過大であるとはいえない、等と主張していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労基法41条2号の趣旨について、その職務の性質や経営上の必要から経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩・休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請され、実際の勤務態様も労働時間の規制になじまない立場にある一方、他の一般の従業員比べて、賃金その他の待遇面でその地位にふさわしい優遇待遇が講じられていることで、労基法の労働時間規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところがないと述べた上で、労基法41条2号の管理監督者の判断基準として、@当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、A自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、B給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているか、という観点から判断すべきであるとしている。そして、この観点からCの管理監督者性を具体的に検討しているが、@当時のCの職責・権限を検討しても、当時のCが実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとは認められない、ACは、遅刻早退により賃金が控除されたことがなかった等から すれば、Cは自己の労働時間について裁量を有していたといえる、B待遇面ではCは管理監督者にふさわしいものと認められるとしたが、結局、Cには、@でいう実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているとはいえないということで管理監督者性が否定され、YがCに支払うべき割増賃金未払い額として536万9000円余が認定されている(YがXに支払うべき割増賃金額は、その3分の2に当たる357万円余)。Xの付加金請求については、YがCを管理監督者に該当すると認識したことに相応の理由があったとして、否定している。
 「実質的に経営者と一体的な立場」を重視すれば、大企業の多くの管理職が管理監督者性を否定されることになろう。

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