1159号 労働判例 「ベルコ事件」
              (札幌地方裁判所 平成30年9月28日 判決)
代理店元従業員2名(原告)に対する再契約拒否の適法性を
業務委託契約の相手方たる会社に求めた事例
業務委託契約と労働関係
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、タイトルにもあるように、赤字となって閉鎖・終了した代理店の元従業員2名X1・X2(Xら、当該代理店を引き継ぐ形となったC代理店から再契約は拒否)が、業務執行委託契約の相手方たるY会社(被告Y)に対して、再契約拒否の適法性を争った事例である。
 Y会社は、冠婚葬祭互助会員の募集および冠婚葬祭の請負等を主たる業務とする会社であるが、全国の個人事業主および法人と代理店契約および業務執行委任契約を締結していた。2017年3月現在で、Y社の従業員は約7000人、そのうち正社員は35名、その他はパート、業務委託であった。平成14年10月末頃、Y社はA個人と代理店契約、業務執行委任契約を締結した(1年ごとに更新)。A代理店は、平成20年4月、X2と、平成21年4月X1と1年間の期間のある労働契約を締結した。なお、平成23年6月に支部制(支社)が導入されている。平成26年11月、F支社長は、Aが大きな赤字となっていることから閉鎖を勧め、Aは平成27年1月末頃、Y社に代理店契約、業務執行委託契約の解約を申し入れ、同月31日に上記の契約は終了した。平成27年2月にCがAに代わりAの担当していた地域の業務を引き継ぎ、X1、X2以外の従業員と労働契約を締結した。以上の経緯から、Xら2名が、Y社に対して労働契約上の地位を有することの確認と未払いの賃金を求めたのが本件である。
 本件の基本的争点は、Xらと被告Y社との間に労働契約が成立しているか否かであり、この点は、ア)AがY社の従業員の採用について委任を受けた商業使用人(商法25条)であったか、イ)XらとY社との間で黙示の間に労働契約が成立していたか、という形で争われている。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、上記ア)について、次のように判示する。まず、会社その他の商人の使用人の定義とその判断基準であるが、商業使用人とは、その商人に従属しその者に使用されて労務を提供する者と解するのが相当であるが、その者に使用されて労務を提供する者に該当するかどうかは、当該商人との間の契約の形式にかかわらず、実質的にみて当該商人から使用されて労務を提供しているか否かによって判断すべきであると。Y社が代理店契約においてAに委託した業務内容は、@Y社の指定する区域における互助会の会員募集、A契約にかかる事務、みどり生命の保険契約に関する事務、B従業員の採用、指導監督であり、Y社が支社長を通じて行っていたのは、@Aに対して代理店としての営業すべき地域を限定していた、A獲得すべき契約数その他の目標の設定、B従業員の新規採用の可否、解雇についての指示指導などである。こうした指示指導は、代理店主であるAの諾否の自由が相当制約するものといわざるを得ないが、その一方で、@Y社と支社長は、契約獲得方法や具体的な営業方法はAに対して伝達することなかった、A従業員の報酬額はAが定めた、BAの労働時間、代理店の事務所所在地については代理店契約で定めていないなど、Y社による具体的な指揮命令が行われたことをうかがわせる証拠はない、としている。また、Aは、Y社に対して従業員のタイムカード等の文書を継続的に提出していたが、Y社がこれに基づいて従業員の労働時間、業務状況について具体的な指示指導を行っていたとは認められないし、他にY社がA代理店の従業員のの労務管理その他の人事権を有していたと認めるに足りる証拠はないとしている。これらのことから、XらとY社との間に労働契約(黙示の労働契約も)が成立していたとはいえないとしている。
 このように本社(あるいは支社)との間に代理店業務委託契約しかないとなると、労働関係についての法規制は、ほとんど遮断されざるを得ないが、それが妥当かどうか、考えさせる事案である。

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