1156号 労働判例 「コナミスポーツクラブ事件」
              (東京地裁 平成29年10月6日 判決)
会員制スポーツクラブの支店長であった者の管理監督者性(労基法41条2号)が否定された事例
会員制スポーツクラブの支店長と管理監督者性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、被告Y(スポーツ施設、スポーツ教室の経営等を目的として、全国各地で会員制スポーツクラブを運営している会社)と雇用契約を締結し、平成27年3月に退職するまでの間、Yで勤務していたXが、支店長職(後に降格配転で、マネージャー職)にあった期間、さらにマネージャー職にあった期間、労基法41条2号にいう管理監督者として割増賃金を支払われていなかったことを違法として、割増賃金等を請求した事例である。 Yでは、支店長には役職手当として月額5万円または6万円が支払われるものとされており、Xには5万円が支払われていた。また、マネージャーについてみれば、管理職であるSM職に位置づけられるマネージャーと非管理職であるM職に位置づけられるマネージャーとがいたが、職務内容や責任は同一であるにもかからず、役職手当として月額5000円が支払われるにすぎず、後者の非管理職に属するマネージャーの場合、給与規程所定の時間外手当・休日労働手当の支給対象となる結果、SM職に位置づけられるマネージャーよりも月額給与額が高額となるという事態も生じていた。なお、Yの正社員約1000名のうち(平成25年2月当時)、SM職の従業員は436名、その下の階層であるM職の従業員は463名であった。その内、マネージャーは241名であった。
 Yの支店では、従業員につき勤務シフトが組まれていたが(早番:8時半ー、中番:午前11時ー、遅番:午後2時ー)、支店長については支店運営の基本となる時間である開店時やトラブルが発生することが多い朝のタイミングに出勤すべきと考えられていたこともあり、Xは、午前8時半頃に出勤することが多かったが、他の従業員の勤務シフトの関係で、特定の時間帯の人員が不足する場合や閉店作業を行う従業員が他にいない場合には、中番、遅番の時間帯に出勤することもあった。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労基法41条2号にいう管理監督者について、@当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任を付与されているか、A自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、B給与等に照らして管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているか、という観点から判断すべきであるとしたうえで、@支店長の職責および権限、A労働時間の裁量の有無、B待遇のそれぞれについて検討し、@について一定の権限が認められていたとするものの、支店において提供する商品・サービスの内容の決定ならびにそれに伴う営業時間の変更については、原則としてYの直営施設運営事業部が行っており、支店長はこれに関わる提案は可能であったものの、独自の判断で決定することはできず、これらのうち多額の出損を伴うような重要な事項について経営会議への参加も原則として求められていなかった、形式的には支店長が権限を有する事項についても、直営施設運営事業部長やエリアマネージャー等による指導等を通じて、支店長の裁量が相当程度制限されていた、Aの労働時間の裁量については、Xを含めた複数の支店長が、人員不足の状況を踏まえて管理業務のみならず、フロント業務やインストラクター業務等も一般の従業員と同様の業務にも日常的に携わらざるをえない状況にあり、そのため恒常的に時間外労働を余儀なくされていた、Bの待遇についても、上記の役職手当の支給のみで、支店長に対して管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がされているとはいい難いとして、結論的には、支店長色にあった当時のXが管理監督者に該当すると認めることはできない、としている。支店長について管理監督者性が否定される以上、マネージャー職についても当然のことながら管理監督者性は否定されることになる。
 本件では、割増賃金額の算定、付加金についても、興味深い判断がなされているが、紙数の関係で省略する。ともかく支店長のような管理職についても管理監督者性が否定されるという判断は労務管理上、重要な示唆を与えるものである。時間外労働が多いにもかかわらず、若干の役職手当の支給で管理監督者として扱って割増賃金等の時間規制を免れるという発想に反省が迫られているといえる。

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