1152号 労働判例 「国・神戸西労基署長(阪神高速パトロール)事件」
              (大阪高等裁判所 平成29年9月29日 判決)
上司の「パワハラ」による精神障害の発症、その後の自殺が業務災害と認められた高裁の事例
パワハラによる精神障害と業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、阪神高速道路のパトロール等を業務とする会社(H社)に勤務する労働者Aがうつ病を発症して自殺したため、Aの父Xが原告となって労災保険法の遺族補償給付等を請求したところ、神戸西労基署長(処分庁)は、Aの死亡には業務起因性がないとして不支給処分を受けたので、手続きを踏んでこの不支給処分の取消を求めたのが本件である。原審(大阪地判平成29・1・30)は、Xの請求を棄却したので、控訴した。
 労働者A(男性、死亡時24歳)は、子供のときから空手を始め、高校、大学でも空手部に属していた。Aは平成22年3月にH社に入社し、正社員となり、交通管理課に属して、交通管理業務(高速道路の巡回パトロール)に従事していた。交通管理課は1班8名体制の4班で構成されていたが、平成24年4月にC(46歳、男性)が交通管理課に主任として異動してきた。Cは、極真空手の使い手で、Aが習ってきた伝統空手とは異なり、攻撃的な流派であった。Aは、C主任とペアを組み業務に従事したが、平成24年5月、自宅で縊死した。C主任との間でさまざまなトラブルがあったが(「道場へ来い、道場だったら思い切り殴れる」などとの発言で、空手の名の下で暴行を告げられた、Aが巡回後書類を作成していると、「何もするな、殺すぞ」と怒鳴り付けられた、同僚の面前で「あいつは使いものになりませんわ」などと言われた、Cの発言で悩んでいることについては他の同僚等には打ち明けて相談していた等)、原審で、Xの側は、Cの発言にはAの人格や人間性を無視した言動が含まれている、嫌がらせ・いじめは執拗で、脅迫行為はAの自殺の1ヵ月前から始まっているからAの自殺には業務起因性が認められると主張したのに対して、裁判所は、これらのハラスメントには、精神障害を発症させるに足りる強い心理的負荷があったとはいえないとしてXの請求を棄却した。Xは控訴。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労災保険法にいう業務上の死亡について一般論(業務と疾病との間には相当因果関係の存在が必要であること、訴訟上の因果関係の立証は一点の疑義も許されない自然科学的な証明ではないこと、厚生労働省が平成23年に策定した認定基準は、裁判所を法的に拘束するものではないが、その作成経緯、内容等に照らして合理性を有するので、それをも参考にして業務起因性の判断を行う等)を述べた上で、Cは、Aの上司であり、その心理状態は反論・反発ができる状態ではなかった、したがってCの前記のような言動によってAには業務による相当程度の心理的負荷が掛かったというべきであるとした。そして、結論的には、本件夜勤時の出来事は、認定基準別表1が、心理的負荷の強度を「強」と判断する具体例としている「ひどい嫌がらせ、いじめを受けた」場合に当たるから、Aが本件自殺前頃うつ病を発症したことについては認定要件を満たしており、また、Aには、業務以外の発病要因、個体側の要因もないとし、Aは、発症したうつ病によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったことによって自殺したのであり、その死亡は業務に起因するものである、と。
 「パワーハラスメント」の明確な法的定義があるわけではないが、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて行われる行為をいうとされることが少なくない。本件では、原審と高裁で判断が逆になったが、そこにもパワハラ問題の難しさがあるように思われる。

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