1151号 労働判例 「国際自動車(第2・歩合給等)事件」
              (東京高等裁判所 平成30年1月18日 判決)
歩合給の算定方法が労使間の合意に基づき定められ労働契約の内容になっていたとされた事例
歩合給の算定方法と労使間の合意

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、タクシー会社を営むY社(被告、被控訴人)に雇われていたXら(原告、控訴人)が、Y社の就業規則の一部であるタクシー乗務員賃金規則(以下、本件賃金規則)において、歩合給の算出に当たり、労働者の所定内および公出(所定乗務日数を超える出勤)の揚高を基にして計算した金額から割増金(深夜手当、残業手当および公出手当の合計)および交通費相当額を控除する定め(以下、本件規定)が、労基法37条1項の規定の趣旨を没却するものであるから、同条および公序良俗に反して無効であるとして、本来支払われるべき歩合給との差額等を請求した事件である。やはり歩合給の算出の方法の違法性をめぐって争われた国際自動車事件(第1)では、すでに最高裁が、基法37条等の規定は、同条等で定められた方法により算出された額を下回らない額の割増賃金の支払いを義務づけるにとどまり、使用者に対して、労働契約における割増賃金の定めを労基法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務づけるものとは解されない等と述べて、原判決を破棄して原審に差し戻した(本誌・・・号)。差戻審(東京高判平成30・2・15)でも、本件規定の歩合給の算出方法は、労働時間に応じた労働効率性を歩合給の金額に反映させるための仕組みとして合理性を是認することができるとしてタクシー乗務員側が敗訴していた。
 なお、X側は、本件規定は、割増金を形式上支給しつつ、歩合給から割増金と同額を控除することで、全体として実質的に割増金の支払いを免れさせて、・・・・・・割増賃金が全く支払われないのと同様の結果をもたらすもので、労基法37条の趣旨を没却するもので、契約自由の原則の判以外であり、脱法行為であり、同条違反である等主張していた。これに対してY社の側は、@本件規定は、過重労働を防止し、法定時間内の効率的営業を賃金面で奨励するものであり、労基法37条の時間外労働の抑制を目的としているのと同様の目的から構築されている、Aタクシー乗務員の95%で組織されている国際労働組合と大小30回以上も協議を行い、その結果・・・・・・歩合給の計算過程で割増金および交通費相当額を控除するという規定がより合理的であるとして労使が合意に至ったものである、等と反論していた。
 〈判決の要旨〉
 東京高裁は、次のように判示して、Xの控訴を棄却している。興味深い論点を指摘すると、(X側が前提とする)本来、「対象額A」と同額を歩合給(1)として支払わなければならないとする労働契約上の義務などはなく、本件規定は、あくまでも歩合給(1)の算出方法を定めたものに過ぎず、労基法37条に定める割増賃金は支払われており、・・・・・・本件規定が同条に違反するとか、その規制を逸脱するとか脱法行為はなく、無効なものとは認められない、A歩合給制度のうち累進歩合給制度を廃止すべきものとしているほかは、歩合給をどのように定めるべきかを規律する法令は見当らない、歩合給は出来高賃金の一種であるから、労働時間ではなく、労働の成果に応じて変動する賃金であり、「労働の成果」の評価方法として、残業手当等その他の経費に相当する金額を控除する方法で歩合給を算出するような方式ほうでについて合意することを否定すべき理由はない、B労働組合との労使合意に基づき、平成26年めでの10年以上もの間、Y社では同賃金規定に定める方式で賃金が支払われていたことからすると、本件規定は労使間の合意に基づき定められ、労働契約の内容になっていた、とした。
 判旨が、述べるように、歩合給は出来高賃金の一種として、労働時間ではなく、労働の成果に応じて変動する賃金であり、「労働の成果」の評価方法として、残業手当等その他の経費に相当する金額を控除する方法を採用して歩合給を算出するような方式をとったからといって違法ではないということである。タクシーの場合、労働時間の増加は、会社の収益増には必ずしも結びつかない。実車率にとことんこだわる会社の「熱意」が労働者側の主張を押し切った感のある判決である。

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