1149号 労働判例 「ジブラルタ生命労組(旧エジソン労組)事件」
              (東京地裁 平成29年3月28日 判決)
会社合併により行われた各会社に存在した労組の合同と
それに伴う専従組合員の労働条件の変更が問題となった事例
労組の合同とそれに伴う専従組合員の労働条件の変更

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、会社の合併が行われた後に行われた各会社に存在した労組の合同とそれに伴う専従組合員(専従職員)の労働条件の変更が問題となった事例である。労組の合同の意義とそこで働いていた専従職員の労働条件がどのように扱われるか、については事例がほとんどなかっただけに珍しいだけではなく興味深い事例である。
 X(原告、女性)は、従前、AIGエジソン生命労組との間で雇用契約を締結し、当初契約社員としてエジソン労組に入局した後、平成21年3月に正社員として登用された。エジソン労組の専従役員は委員長、副委員長2名、書記長(Xの夫)の4名であったが、書記長が体調不良になり、長期私傷病休職のあと結局退任したため、それまで多くの仕事をこなしていたXが正社員として登用された経緯がある。平成23年11月18日、エジソン労組は、臨時総会において、労組合同後の組合規約、書記局規約、書記局規則および組合書記局人事制度の受け入れを決定した。、
 ところで、会社合併の後、平成24年1月13日、エジソン労組、エイアイジ−・スタ−労組、ジブラルタル生命労組(被告、Y)が、Yを存続組合として合同することになり、Yに雇用されることになったXが、本件合同後、エジソン労組当時とは異なる給与(賃金)および労働時間の定め(Xの主張では年間180万円の減額と1日30分の延長)とされたのは労働契約法8条に反する労働条件の変更である等として、本来支払われるべき給与等との差額、強引な説得に関わる不法行為についての慰謝料等を求めていたものである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労働組合の合同の意義と手続きについて次のように述べる。労働組合の合同には、新たな労働組合が結成される新設合同と一方が他方を吸収する吸収合同があるが、労働組合法では労働組合の合同を認める規定はない(一般社団法人法の準用もない)。しかし、合同が労組法の趣旨に反するものでないことから、学説は一般にこれを認めている。そして合同の効果として、組合財産、組合員との権利義務関係、労働協約等は合同後の組合に特段の意思表示がない限り、基本的に(原則的に)包括承継される。そして、本件では特段の意思表示がないとして、Xの労働契約上の地位の包括承継があったとした。
 また、本件では、Xの合意なく、本件合同後YによりXに適用された書記局規則および組合書記局人事制度によりXの労働条件を不利益に変更できるか否か、これらの規則が就業規則といえるかが問題となっている。本判決は、就業規則を「事業場の労働者集団に対して適用される労働条件や職場規律に関する明文化された規則類」を指すものとした上で、上記の規則を就業規則に当たるとしている。そして、労働契約法10条の就業規則の不利益変更の法理を踏まえて検討し、年間150万円におよぶ減額は、従前の約3割減であり、不利益は甚大であると結論づけた。最高裁の判例では、みちのく銀行事件(最1小判平成12・9・7)で、一部の高齢の労働者に大きな不利益が集中する形になっていたことから不利益変更の合理性を否定したが、本件も、同様の結論に達している。なお、7つの農協が合併し、合併に伴う就業規則の改定で、退職金が減額された、大曲市農協事件(最3小判昭和62・2・16)では、労働条件の統一的・画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、合併後の労働者間の労働条件の均衡の必要性が高いこと等から不利益変更の合理性を肯定し、Yも、Xと他の書記局員との給与の差を適当ではないとして両者の均衡を重視し、給与減額の必要性を主張していたが、合併(合同)により労働条件が区々になるのはやむを得ない、労働条件の均衡を過度に重視して一書記局員の甚大な不利益を正当化することはできないとして、認められなかった。
 合併(合同)による、同様な仕事をしながらの労働条件の格差と均衡をどのように図るかを考えさせる事例である。

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