1144号 労働判例 「代々木自動車事件」
              (東京地裁 平成29年2月21日 判決)
退職労働者の年休時季指定および退職金の計算が問題となった事例
退職労働者の年休および退職金の計算
  解 説

 〈事実の概要〉
 X(原告)は、Y社(被告、一般乗用旅客自動車運送事業を行う会社)に、平成9年4月1日に入社し、タクシ−乗務員として勤務していたが、平成24年4月3日に満69歳に達し、同月17日にY社を定年退職した。なおY社の就業規則では、従業員の定年を満69歳とし、定年に達した日を含む賃金の締め日をもって退職とする旨、規定されていた。Xは、平成24年3月17日ころ、Y社に対して、有給休暇残日数すべての消化を申請したところ、Y社は、同月25日および27日の2出番分(1出番は2日分の勤務に相当する)のみの有給休暇取得を認めたが、その余は認めず(欠勤が7出番あった。なお、Y社は乗務員賃金規定において、有給休暇の取得が可能なのは1か月に2出番(4日)までと定められていた)、少なくとも12出番(24日)の有給休暇が未消化の状態で退職した。
 ところでY社の就業規則に基づく退職金の支給規定によれば、勤続15年の者の退職金は61万8000円であるところ、Y社は、その従業員の一部で構成する労働組合(本件組合)と交渉して労働条件を決定しており、本件組合との間で65歳までの定年延長を定めるに当たって締結した平成8年協定書で、退職金を63歳時点で凍結することを定めており、その内容は周知され、それに従った運用がなされていたから、63歳時点で退職金を凍結するという労使慣行が確立していた、これによればXの退職金は約18万円となると主張していた(なお、本件組合は、労組法17条の規定する拡張の要件である4分の3に達していなかったし、Xは本件組合の組合員でもなかった)。
 本件の主な争点は、@退職金額の算定、A平成24年4月の支給分の未払い賃金の有無、B不法行為に基づく損害賠償如何等である。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示する。Xは、本件組合の組合員でなく、本件組合の組織率が4分の3以上であるとは認められないから、平成8年協定書およびその後の平成14年協定書が労働協約としてXを拘束することはない。また退職金規定は、就業規則46条に基づく規定であるから、労働契約法12条によりこれに抵触する労使慣行の効力を認める余地はない。このように判旨は、労働契約法12条に基づき、就業規則の最低基準効を援用して、それに抵触する「労使慣行」(それが成立するか否かは議論の余地があるが、労使慣行が成立していたとしても)の効力を否定するのである。
 次に、退職労働者の年休請求について、次のように判示する。Y社は乗務員賃金規定において、有給休暇の取得が可能なのは1か月に2出番(4日)までと定められていたから、それを超える有給休暇の申請を拒否したことは正当な時季変更権の行使に当たる旨主張するが、時季変更権の行使には、その前提として、他の時季に有給休暇を取得する可能性の存在が前提になる。Xは、定年退職時に未消化有給休暇すべての取得を申請していたのであるから、他の時季に有給休暇を取得する可能性が存在せず、Y社において時季変更権を行使することは認められない。この点は、実務ではこのような取り扱いが定着していたようにも思われるが、この点を明確に判旨する裁判例として、興味深い。
 なお、Y社は、賃金に関する規定の交付要求に応じなかった等不誠実な対応は、著しく社会的相当性を欠くものとして不法行為に当たる、常時10人以上を使用する使用者に当たるにもかかわらず、労基法89条に基づく就業規則のの届出義務を怠るなどずさんな労務管理が行われていた等として、50万円の慰謝料を認定している。

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