1139号 労働判例 「ハマキョウレックス(差戻審)事件(最高裁)」 (地裁判決は1091号参照)
              (最高裁第2小法廷 平成30年6月1日 判決)
無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当の支給の相違が
労働契約法20条に違反するとされた事例
有期の労働契約を締結した労働者と労働契約法20条

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、一般貨物自動車運送業等を営む会社(Y社、被告、上告人)に勤務する有期労働契約社員・運転手X(原告、附帯上告人)らが、Yとの間に期間の定めのない労働契約が成立している、または仮にそうでないとしても、正社員であるドライバ−との労働条件に差があるのは労働契約法20条に違反して無効であるとして、Yに対して、正社員と同一の権利があると主張して、そのような地位にあることの確認を求めるとともに、正社員が通常受給すべき賃金との差額の支払い等を求めていた事件の上告審である。差戻審の二審判決(本誌・号・頁)は、@無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の相違については、それぞれの手当の目的・性質からして労働契約法20条に違反する、A住宅手当、皆勤手当の相違については、両者に差を設けても同条違反には当たらない、とした。これに対してYが上告(Xが附帯上告)していた。
 本件も、同一労働同一賃金の議論との関連で、注目されていた最高裁判例である。パ−トタイム・有期雇用労働法(施行は2020年4月1日、中小企業は、1年遅れて2021年4月1日)の施行後も、この判決の判旨は、上記法律の解釈に当たって参照されることになる。

 〈判決の要旨〉
 1 Xの附帯上告について、次のように判旨する。労働契約法20条は、私法上の効力を有する。有期労働契約のうち、同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効になる。もっとも、その場合であっても、[労基法13条のような補充性の規定のない労働契約法20条の場合においては]、同条の効力により当該有期労働契約者の労働条件が比較対象である無期労働契約者の労働条件と同一のものとなるものではない。また、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、本件正社員の就業規則または本件正社員の給与規定の定めがXに適用されることになることは、就業規則の合理的な解釈としても困難である。本件における住宅手当の支給の相違は不合理であると評価することはできない(契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対して、正社員の場合、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となりうる)が、皆勤を奨励する趣旨で支給される皆勤手当については、出勤する者を確保することの必要性については、職務の内容によって、両者の間に差異が生じるものではないことからして、この点の支給の相違は、不合理であると評価することができる。
 2 Yの上告について、次のように判旨する。本件における有期労働契約者と無期契約労働者との間の無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の支給の相違は、不合理であると評価することができ労働契約法20条に違反する。したがって、労働契約法20条が適用されることとなる平成25年4月1日以降において、Yが本件無事故手当等に相違を設けていたことが不法行為に当たるとした原審の判断は正当として是認できる。
 労働契約法20条の「不合理なもの」に関して、個々の賃金趣旨・目的に照らして判断した最高裁の判断として、次回取り上げる長沢運輸事件とあわせて、興味深い。なお今後は、ガイドライン案の検討も、これら最高裁判決と併せて、不可欠であろう。

BACK