1131号 労働判例 「竹屋ほか事件」
              (津地方裁判所 平成29年1月30日 判決)
GPSにより出社、退社の時間管理が行われていたド−ナツ店店長の
致死性不整脈による死亡について、会社他に損害賠償義務が認められた事例
ド−ナツ店店長の死亡と損害賠償

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、2つのド−ナツ店の店長と、サ−ビス事業部の課長代理とを兼務していた亡Kが、致死性不整脈により死亡したケ−ス(死亡時50歳)について、Kの相続人であるXら(原告)が、Kの死亡はYら(被告)が、適正に時間管理を行う義務を怠った、長時間労働等過重な業務に従事させたことによるものであるとして損害賠償を求めたものである。また、本件では、被告代表者らにも会社法429条1項にいう取締役の責任も求められている。
 Kは、Yがフランチャイジ−として運営するド−ナツ店において、Bス−パ−C店店長、D店店長を勤めるとともに、サ−ビス事業部の課長代理を兼務していた。店長の業務は、ド−ナツの製造・販売の統括、従業員の労務管理(C店には2名の正社員、パ−ト・アルバイトが20数名配置)、人員や原材料が不足した場合の各店舗間での協力・調整であった。GPSにより管理されたKの労働時間については、Kの上司であるHらが確認していたが、本判決が認定したKの労働時間は、発症前1ヵ月間に59時間57分、同2ヵ月間の平均が93時間11分、同6ヵ月間の平均は112時間35分であった。裁判所は、業務内容自体が過重な業務であったとは認められないものの、致死性不整脈の発症前2ヵ月間ないし6ヵ月にわたって、1ヵ月当たり平均80時間を超える時間外労働に従事したことを認めている。なお、Yでは、Kを管理監督者として扱っていた。

 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判断している。Kには、高脂血症、陳旧性心筋梗塞の既往症等があったが、Kは、致死性不整脈の発症前2ヵ月間ないし6ヵ月にわたって、1ヵ月当たり平均80時間を超える時間外労働に従事し、また(Xの主張を加味すると)約10ヵ月ほど平均120時間以上の時間外労働を続けていたのであり、既往症の影響よりもむしろ、長期かつ長時間の過重労働が強く影響していた可能性が高い。Kの既往症は、自然経過によって致死性不整脈を発症させるほど進行していたとは認められない。そして、Yが定期健康診断を実施したり、口頭聴取したというだけでは、Yが安全配慮義務を尽くしたとはいえず、Yには安全配慮義務違反が認められる、と。
 管理監督者(労基法41条2号)については、従来の判例どおり、@職務内容、権限および責任に照らし、労務かんりを含め、企業全体の事業経営に関する重要事項への関与、A勤務態様が時間管理等になじまないものか否か、B給与(基本給、役付手当等)において管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か、の点から判断すべきであるとし、@Bス−パ−C店店長は、あくまで同店舗内の労務管理をやる職責を負っていたが、経営者と一体的立場にあったとは言い難い、KがY社全体の事業経営に関する重要事項に関与していたとは認められない、AKが労働時間について、自由裁量権があったとは認められない、B役割手当は月6万円にすぎず、月100時間を超える時間が労働の実態を考慮すると、この程度では適用除外を受ける管理監督者に相応する待遇を受けていたとはいえない、としてKの管理監督者性を否定している。
 会社法429条1項にいう取締役の責任については、それを肯定し、yの代表者等もkに対してY会社と同一の責任を負担するのが相当であるとされている
 なおKが、喫煙を続けていたこと、運動もせず肥満を解消することもなく、食事制限もせずに、脂っこい食事や甘い飲料を日常的に摂取していたことから、過失相殺が3割認められている。また、逸失利益に関する損益相殺としてXらがすでに受けた労災保険給付の既払い分とともに、労災保険法64条1項に基づく支払猶予の抗弁が認められている。すなわち、遺族補償年金の前払一時金の最高限度額まで支払猶予がなされている。これらの点も本件で注目される。

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