1129号 労働判例 「宮崎労働基準監督署長(遺族補償)事件」
              (福岡高裁 平成29年8月23日 判決)
心停止により死亡した労働者について、発症前1週間の強度の精神的・身体的負荷の集中に基づき
業務起因性を認めた事例
発症前9日間の強度の精神的・身体的負荷と業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、心停止により死亡した労働者Bの妻X(原告)が、夫Bの死亡は過重な業務によるもので業務上であるとして、労災保険給付の不支給処分をした監督署長Y(被告)を相手にその取消を求めたものである。Bは、平成24年5月25日午後10時30分頃、福岡出張を終えて帰宅した。翌日の午前1時10分頃、自宅で倒れているのをXに発見され病院に救急搬送されたが、同日午前2時過ぎに死亡した(37歳)。C医師は急性循環不全と診断している。なお、下記で述べるクレームは、d店に卸していた鶏の炭火焼き真空パックを購入した顧客から異臭がするとのクレームをいう。また、2名の医師は、Bにブルガダ症候群の基礎疾患があったと判断しているが、ブルガダ症候群による心室細動や心停止の発症は身体活動やストレスなどの精神的要因とは関連せず、むしろ安静時や睡眠中に発症が多い特色があるとされている。
 原審(宮崎地判平成28・12・14)は、X側の主張を一部肯定、一部否定しながら(始業前の事務所内・事務所周辺での清掃について労働時間性を認めながら、出張に係る移動時間、電話で対応する必要があった休憩時間については労働時間と認めず、また持ち帰り残業時間は証拠不十分とした)、Bについては、発症前6か月間の労働により相応の疲労の蓄積があったとし、発症前9日間から発症当日に、B自身が対応しなければならなかった重要な取引先によるクレーム対応および県外への出張による強度の精神的・身体的負荷が短期に集中したものであり、業務起因性を肯定する重要な要素になるとした。そしてBの基礎疾病が本件発症以前にその自然的な経過により心停止を発症させる程度にまで増悪していたとは認めがたく、本件発症はBが従事していた業務の危険性が現実化したものと評価できるとして、本件発症とBの業務の間には相当因果関係が認められるとした。これに対してYが、Bの有していた基礎疾患(ブルガダ症候群)の取り扱い・評価が不十分である等として控訴していた。
 〈判決の要旨〉
 高裁も、結論的には、原判決に若干の補正をするものの原審相当として本件発症とBの業務の間の相当因果関係を肯定している。まず、Bの職場においては、発症前6か月以前から平均して2時間を超える時間外労働が恒常化していた実態があり、Bの発症前6か月間の業務量および業務内容が相当程度の精神的肉体的疲労を蓄積させるものであったとする原審の認定判断を妥当としている。また、通常業務に加えた本件クレーム対応は、相当な精神的負荷を伴う業務であったと考えられ、出勤および帰宅が早朝ないし深夜となり、移動時間が長時間かつ過密なスケジュールになる県外への出張(鹿児島への出張1回、福岡への出張2回)などBの稼働実態に鑑みると、本件クレーム発生後の過重な業務が、日々の睡眠等でその疲労の回復が図られるものではなかった、としている。そして、本件発症前の1週間に行われた上記3回の出張がBにとって強度の精神的・身体的負荷となったことは明らかであるとする。なお、高裁は、Y側が主張していたBのブルガダ症候群については、次のように述べている。すなわち、Bがブルガダ症候群の基礎疾病が存在し、Bの心停止がブルガダ症候群による心室細動によって引き起こされた可能性は否定できず、またブルガダ症候群による心室細動ないし心停止は誘因の有無やその程度とは無関係に発症し得るものであるとしても、本件発症は、Bの従事していた業務に内在する危険が現実化したものと評価できるものである、と。
 ブルガダ症候群のような基礎疾病が存在していても、その存在がなくても、業務による強度の精神的・身体的負荷によってを本件疾病が発症したということであろう。難しい判断であるが、ブルガダ症候群のような基礎疾病を有する者について、疾病(心停止)と業務との間の相当因果関係を認めた事例として興味深い。

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