1125号 労働判例 「山元事件」
              (大阪地裁 平成28年11月25日 判決)
「アルバイト」として就業していた者の心臓性突然死について安全配慮義務違反が問題とされた事例
アルバイトの心臓性突然死と安全配慮義務

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、Kの相続人であるXら(妻と子、原告)が、アルバイト従業員であったKが死亡したのは労働時間を適切に管理すべき義務があったY(被告)が、それを怠りKに長時間かつ不規則な労働をさせたことにより致死性不正脈を惹起させたことが原因であるとして損害賠償等を求めたものである。
 Y社は、昭和40年に設立された、各種商品陳列用什器および事務用什器備品の賃貸ならびに販売を業とする会社であり、百貨店や展示会場への什器の設置等を行っている。Yにおける業務のうち百貨店や展示会場への什器の搬入、設置作業についてはその業務量が日によって大きく変動するため、主としてYとの間でアルバイトとして登録した者を使用していた(具体的には、各現場の作業日の約1週間前からアルバイトの申し込みを受け付ける)。Kは、昭和48年生まれの男性で、高校卒業後、複数の職を経て、遅くとも平成9年5月頃からアルバイト従業員としてYのT事業所において恒常的に勤務していた。アルバイト従業員は、YのT事業所の営業担当社員から具体的な指示を受け、催事陳列什器等の設置・撤収作業等を行っていた。アルバイト従業員の業務は、様々な場所・時間帯・時間数にわたるものであるが、勤務する現場については制限はなかった。Kは、平成24年4月12日、仕事を終えて午後8時過ぎに帰宅し食事の後意識を失って倒れ救急搬送されたが、死亡した(その前日早朝に自宅を出て同日の朝から翌日の夕方まで徹夜で作業を行っていた)。Kの死亡については、業務に起因するものであるとして労災認定がなされている。なお、Kの賃金総額は、平成23年420万円余、平成23年4月11日から24年4月10日で480万円余である。Yでの勤務歴は15年に及ぶ。
 本件での争点は、@業務とKの死亡との因果関係、AYの安全配慮義務違反の有無、B過失相殺の可否等、C損害の発生および額、である。なお、裁判所は、生前、Kは、Xらと3人で居住していたが、Kの収入により生計を維持し、Kは他の稼働先はなく、Yからの収入のみで生計を立てていたと認定している。Yでの勤務歴史
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、@について、Kが死亡前6か月間従事していた業務は、月毎の労働時間数の差等はあれ、その時間帯の不規則さ等から見て相当程度疲労を蓄積しやすいものであった、死亡に近接した時期には労働時間数が増加しただけではなく不規則・深夜時間帯にわたる作業も増加していた上、十分な休息なく連続して数日働くなど、身体に重大な負荷が生じていたものと認め、本件作業とKの致死性不正脈および死亡との間の因果関係を認めている。AのYの安全配慮義務違反の有無の点については、次のように判示する。Yとアルバイト従業員のとの間の労働契約は、法形式としては、被用者の申し込みに応じて使用者が具体的な作業場所を指示し、被用者が同現場の作業に従事するという形をとるものであるが、Yにおいては1人のアルバイト従業員が1日のうちに複数の現場に赴いて稼働することが当然の前提として賃金の算定における現場間の移動時間の取り扱い、移動に要する交通費の支給に関するルールが定められていたのであるから、Yでは個々の現場での作業を完全に独立のものとして扱っていなかった、YとKとの労働関係は形式的には各現場ごとに個別の労働契約が成立するものであるが、上記の事情に照らせば、Yには「期間の定めのない雇用契約における使用者と同様に」業務に伴う疲労等の蓄積により心身の健康を損なうことのないよう注意すべき義務があった、とした。なお、移動時間については、業務の過重性を判断する際には、作業時間と同様にYの指揮命令に基づくものとして労働時間と認めている。Bについては、民法722条の適用ないし類推適用により、K自身にも自己保健義務があったことを認定して、30%のかなりの過失相殺をしている。Cについては、平成23年4月11日から24年4月10日で480万円余を基礎収入としているが、遺族補償年金の給付基礎日額から算出した年収額を基礎収入とすべきとするX側の主張は、本件で割増賃金を考慮することは妥当でないとしている。
 アルバイト従業員といっても、本件のような日々雇用的なケースは稀であり、その意味で注目される事例である。

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