1122号 労働判例 「新宿労働基準監督署長事件」
              (東京地裁 平成28年2月5日 判決)
派遣労働者が敗血症で死亡したケースで業務起因性が否定された事例
派遣労働者の死亡と業務起因性

 解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、派遣元会社に雇用され、派遣先事業場に派遣されていたX(原告)の夫Hが、派遣先事業場における過重な労働が原因で敗血症を発症しそれが重症化して死亡したのは、業務上の疾病に当たるとして労災保険給付の不支給処分をしたY(被告、労基監督署長)を相手として、不支給処分の取消を求めたものである。
 Hは、昭和51年3月に・・大学工学部土木工学科を卒業し、数社で設計業務に従事し、平成6年3月、同僚と土木アプリケーションソフトを用いた設計を主な業とする事業を立ち上げたが、平成11年3月ころ当該事業を閉鎖した。その間の平成9年4月からは派遣元会社に雇用され、平成18年9月1日からは派遣先事業場に派遣され、派遣先会社において駅ビルの土木工事の施工管理業務に従事したが平成20年5月に退職した。その後、同年9月9日からは派遣元会社に契約社員として雇用され、同日から平成21年3月31日までの予定で派遣先会社において土木管理業務に従事した。本件業務は終電後の駅構内、ホームの躯体、軌道内から地下鉄トンネルの目視検査、打音検査等を行う深夜業務であり、作業員3ー6名の体勢でおこなわれ、Hは工事責任者であった。この目視検査の外、協力業者や社員との打ち合せ、書類の作成、現場作業のデータのまとめ、片付け、清掃等を終えて深夜業務がすべて終了するのは概ね午前7時ころであった。なお、本件業務は業務の合間に仮眠を伴うものであり、派遣先事業場の事務所の分室が仮眠室とされた。その分室の騒音値は、57ないし58 であった(Hが仮眠に入る時間帯では東急東横線の平日ダイヤによれば、平均3分に1本の運行があった)。
 Hには特段の病歴はなかったが、20歳頃から1日に17本ないし18本の喫煙をし、毎日のようにビール500tまたは日本酒1ないし1・5合の飲酒をしていた(慎重173p、体重75s)。平成20年9月27日、日頃の帰宅時間である8時30分過ぎて帰宅したが、体調が悪化し、町田市民病院を受診した。そこで敗血症、播種性血管内凝固症候群と診断されたが、同月29日午前4時頃に死亡した。死因は敗血症の原因菌は肺炎球菌であるとされた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、本件疾病は、脳・心臓疾患のように行政による認定基準が定められたものではない(労基法施行規則別表1の2の11号に「その他業務に起因することの明らかな疾病」が規定されている)ことから、労災補償の意義(危険責任の法理)に基づいて、業務と疾病との間に相当因果関係の存在が必要であり、この相当因果関係は被災労働者の従事していた業務に内在する危険が発現したものと評価されることが必要であるとして、Hの本件疾病が業務上の過重負荷によりその自然的経過を超えて悪化したものといえるかどうかを検討するとしている。そして、本件業務に従事する平均的な労働者を想定しながら、本件業務の内容や性質に基づいて客観的に判断されるべきであるが、その際、本件業務に係る労働時間、勤務の不規則性、拘束時間、作業内容、精神的緊張等の諸般の事情を考慮し、具体的事情に沿って判断するとしている。まず、@発症前の時間外労働時間数について、発症前の2か月ないし6か月でみると、平均でも34時間であり、長時間の時間外労働時間があったとは認められない、A勤務の不規則性も限定的なものであった、B拘束時間も客観的にみて深刻なものではなかった、C精神的緊張が継続する状況にあったとは認められないとして、業務の過重性を否定している。結論として、裁判所は、本件疾病が業務上の疾病に当たるとすることはできないとする。
 派遣労働者、契約社員の置かれた状況等を考慮すれば、いささかHおよびXに厳しい事実認定および判断であるとも思われるが、客観的判断ということであれば、こうなるとも思われる。

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